2024年12月14日(土)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2023年10月5日

防衛の「穴」だった潜水艦

 台湾は80年代から潜水艦の新規建造や輸入ができていなかったため、老朽化した装備では中国の新型潜水艦には対抗できず、海面下の戦場が台湾防衛の穴になると心配されていた。台湾にとっては長年の夢が叶った形である。

 潜水艦は全長80メートル、重要は2500−3000トン。ロッキード・マーティン社製の対潜水艦魚雷も装備されているという。

 中国は台湾侵攻の際に、海と陸から封鎖を試みる可能性が高い。そのなかで潜水艦の保有は中国の海上行動を抑制する重要な道具になるはずだ。

 2025年の就航後は、現役のオランダ製潜水艦2隻に加えて3隻体制となり、さらに27年までにはもう1隻が加わる。あわせて8隻を建造する可能性があるという。

 蔡総統は「国産」を誇ったが、実際には潜水艦自身の4割が台湾による装置・材料を使ったもので、6割が外国からの輸入であるようだ。この台湾の潜水艦製造計画自体が、水面化で米国が音頭をとって進めた国際協力体制によって実現したことは、暗黙の事実である。

 もともと国際社会に対する中国の圧力で、潜水艦建造の自主技術のない台湾は建造ができないまま、空中と海上では一定の戦力を有してはいても、現代戦で極めて重要な戦場である海中の警戒体制が脆弱であることはかねてから台湾にとって悩みの種であった。

 そこで、対中独自路線を掲げる蔡英文・民進党政権が誕生した16年に建造計画がスタートしたとき、台湾では民間企業を通して建造するという建前をとり、そこに世界の技術を集める手法をとった。

 技術者は主に英国から退役軍人や民間企業の人材を台湾に長期にわたって招き、米国、英国、豪州、韓国など米国の同盟国から技術提供を受けた。計7カ国がプロジェクトに参加したとされ、インドの協力もあったという。

日本が入っていないワケ

 対中包囲網の構成国が一堂に介した座組みとなった。蔡英文総統としては、台湾は中国の統一圧力を受けて国際社会に助けを求めるだけでなく、自らを守る覚悟を示すことでさらに国際社会との連携を深めたい思いがある。

 その中には残念ながら日本は入っていない。台湾側では、優れたディーゼル技術を持っている日本への期待は当初から高かった。だが、日本には武器輸出三原則の壁もあり、対中配慮もあって、潜水艦建造計画への参画は見送られたとみられる。日本にとっては日台の安全保障協力の深化につながり、産業界の「商機」となる可能性もあっただけに惜しむ声もある。


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