2024年5月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月30日

各種報道に基づき、本件についてのこれまでの動きを時系列で整理すると次の通りとなる。

・2022年2月24日 ロシアのウクライナ侵略開始

・2022年2月27日 ベラルーシ、国民投票で「非核地帯となり、中立国となる」を定めた憲法の規定の削除を可決

・その後 ロシアからベラルーシへ核搭載可能なイスカンデル短距離ミサイルの供与、ベラルーシ空軍機を核搭載可能に改修

・2023年3月25日 プーチン大統領がベラルーシに戦術核を配備することとした旨表明

・2023年5月25日 ロシアからベラルーシへの核配備についての協定に両国が調印(ロシアが管理と使用判断の権限を持つ)

・2023年6月中旬 貯蔵施設の整備などの受け入れ準備が完了し、配備開始

・2023年10月 配備完了、実戦運用が可能な状況となる(12月にその旨が明らかとされた)

 上記の社説はロシアの意図・狙いについてあまり明確に述べていないが、いくつかの可能性が考えられる。①フィンランド、スウェーデンのNATO加盟の動き、ポーランドをはじめとする隣接国での軍備増強など(ロシアから見ての)安全保障環境の悪化に備える。②ウクライナの戦況を見据えて核のオプションを増やす。③今後、いずれかの段階であり得る西側との交渉におけるバーゲニング・チップとする、といったことである。

 上記の三つの意図・狙いは相互排他的なものではなく、おそらくそのすべてを視野に入れたものであろうが、①の要素が一番重要だったのではないかと考えられる。また、当然のことながら、「米国が欧州のNATO同盟国に核兵器を配備しているのだから、ロシアが同盟国のベラルーシに核兵器を配備して何が悪い」という考えもベースにあったであろう(実際に、米国が欧州のNATO同盟国との間で行っている「核共有」(核貯蔵)と同様の運用が想定されているようである)。

核の拡散となってしまうのか

 ソ連が15カ国に分裂した際、ベラルーシは、ウクライナ、カザフスタンとともに、ソ連の核兵器が領土内に残されていた国の一つとなり、その非核化が大きな課題となったが、三カ国の中でも、どの国よりも、ロシアに協力的に行動し、核兵器をロシアに返送し、非核化を受け入れた。1990年7月のベラルーシ最高会議において、「主権宣言」が採択された際、「非核地帯となり、中立国となる」ことを目標とすることが規定され、その趣旨が94年に採択された新憲法にも規定された(2022年に削除されたのはこの規定)。

 今回の措置は、ロシアが保有、管理する核兵器がベラルーシに配備されるという形をとっているので、ベラルーシ自身の非核化とは異なった次元のものである。核兵器不拡散条約(NPT)は非核兵器国が核を受領、製造、取得してはいけない旨規定しているが、この配備自体がベラルーシのNPT上の義務違反となるわけではない。

 一方、非核化を進めた1990年代との相違、同じく非核化を行いロシアの侵略を受けたウクライナとの相違が浮かび上がる状況となっている。また、これは「核兵器復権の時代」を示唆するもう一つの事例であり、核の拡散傾向を助長する動きであることも否定できない。

 ルカシェンコは、1994年以来ベラルーシの大統領の座にあるが、2020年8月の大統領選挙以来、プーチンへの依存を強めているとみられている。ベラルーシに配備された核兵器の運用は基本的にプーチンの判断でなされると考えられる。 なお、当面、ロシアは核兵器使用を考慮しなければならないほど追い詰められた状況にあるわけではないだろう。

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