2024年5月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月20日

 本来、「おとり」というのは、攻撃されれば、大規模な反撃を招くことになるということで抑止のために配置される。仮に(イラクの)米軍が「おとり」だとすれば、問題はイラクで米軍を攻撃するイランの代理勢力がイランの差し金で攻撃しているのか、彼ら自身の利害で攻撃しているのか分からないことである。

 前者であればイランは、米側の反応について危険な誤解をしており、後者であれば、代理勢力はイランが意図しない緊張のエスカレーションを招いている。いずれにしても、シリアとイラクの米軍は「おとり」ではない。

 米国は、イランの代理勢力が米軍を狙うのを防ぎ、米軍兵士を標的とすることで米国とより大規模な衝突を引き起こすリスクを減らすためにイラクから大部分の米軍を撤退させる準備をするべきである。仮にイラクとシリアの米軍が暴力に対する避雷針になる(攻撃の対象となる)のならば、イランの代理勢力の勝利となろう。

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「弱腰」批判避けるバイデン

 この論説は、イランの代理勢力による攻撃をかわすためにイラク、シリアからの米軍の撤退を主張しているが、1月下旬の3人の米軍兵士殺害に対して、2月2日、米国はシリア、イラクのイランの代理勢力に対する空爆を開始し、今後も継続するとしている。わざわざ米国本土からB-1戦略爆撃機を投入したのは、その気になればイランも空爆出来るというメッセージであろう。

 11月に大統領選挙を控えるバイデン政権は、米兵士殺害で同政権の弱腰に対する批判が高まることを無視出来なかったが、他方、このタイミングでイランと正面切って対決し、新たな国際紛争を始めるリスクも避けたくてイランの代理勢力に対する大規模攻撃というオプションを選んだものと思われる。

 しかし、バイデン政権は「イラン本土は攻撃しない」と宣言してしまっており、イランは自国への直接攻撃は無いことを知ってしまったのでイランに対する抑止力の回復にはならず、この攻撃でイランとその代理勢力を一時的に大人しくさせることは出来ても、問題は解決されないのではないか。

 核武装に成功していない現時点でイランは、米国と対決しても勝ち目は無いことから米国との直接対決を望んでいないと思われるので、米軍の攻撃に対して批判はしても正面切って米国との対決は避けるだろう。また、代理勢力側も米軍の攻撃で武器等の資材を失い、彼等の攻撃力を一時的に低下させることは可能であろう。ただし、イラクの一部の代理勢力が攻撃に怯まずに攻撃継続を宣言しているのは気になる。


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