2024年4月27日(土)

ペコペコ・サラリーマン哲学

2009年6月1日

 「こんな大きな立派な会社の手形をもらったとなれば、銀行がすごい会社だと私どもの会社をほめてくれる。預金よりずっと有難い」若い夫婦はそう言いました。こんなことは本社にいたら絶対に学べないことです。

 これは一例ですが、こんなびっくりするような経験をたくさんさせてもらいました。が、私は内心では「一部上場のメーカーに勤めたはずなのに、なんでプレハブを売って回ったり、一枚一枚伝票を作ったりしなければいけないのか」と思っていました。

 そうこうしているうちに、お達しが出ました。「全員仕事をしなくていい」――「仕事をすればするほど赤字がかさむから」。

「バケツの気持ちになってみろ!」

 やることがいよいよなくなったので、信越ポリマーの仕事を手伝うことになりました。信越ポリマーが作っているバケツや、波板や、雨どいや、タイルやタンブラーといった商品を売る仕事です。

 またトラックに乗って、飛び込み営業の毎日です。バケツの品質は悪く、10個お店に委託販売として置かせてもらっても、1週間後に訪れると、3個がヒビ割れしていて、1個も売れていないので、3個交換するだけ、という有り様でした。

 文句を言うと、上司から「お前は何もわかっていない! お客の気持ちどころか、バケツの気持ちもわかっていない! 運転手の隣に座る資格などない!」と叱られ、バケツと一緒に荷台に載せられました。荷台はガタガタ揺れるので、積んだバケツが降ってきて、頭にかぶさった、なんてこともありました。

 それでも毎日毎日体ごとバケツと一緒についていくと、商品への愛着が深まってきます。どうやったら荷崩れしないか一生懸命追求し、縄の結わえ方の現場プロになっていきました。ですから、いまでも新聞紙の束をササッと紐でくくるのは大の得意です。

 納品先では目の前で値引きを迫られることはざらですし、力のある小売店がどれだけマージンを得ているかも肌で体感しました。契約の仕方、保険のかけ方、代金回収の方法など、ありとあらゆることを学んだので、運送、物流については、上司が怖くなくなりました。


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