科学で斬るスポーツ

2014年10月31日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

二刀流は続けるべきか

 二刀流は体への負担は大きいといわれる。一般に、投手のローテションは中5、6日が必要だが、大谷は投球の数日後には打者として試合にでている。20歳の若さはあるものの、どのくらい休ませて投げさせるか。日ハムの起用法が注目される。当初は中10日前後で使う予定と明言した日ハムの栗山英樹監督は、今年、中6~8日での登板など試行錯誤を続けた。どれが一番良いのか探っている。怖いのは、けが。筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター整形外科の馬見塚尚孝講師(整形外科医)は、筑波大学硬式野球部の部長兼チームドクターとして選手の障害予防とパフォーマンス向上について研究しているが、「大谷選手の投球動作は、高校時代に比べ明らかによくなっている」と語る。

図8 現在と高校時代の大谷投手の接地時のフォーム(提供:『野球太郎』編集部)

 図8は、踏み出した脚が地面に接地したときのフォーム。馬見塚さんが注目するのは右肩の位置。現在は右手が右肘よりやや高い位置となっているが、高校時代は逆に右肘より右手が下がっている。「高校時代の投球動作は、この写真のあと急激に肩をひねる動作となり、投球スピードは上がるが肩肘を痛めやすいためお勧めできない。一方、現在の投球動作は、広島の前田健太投手、ニューヨーク・ヤンキースの黒田博樹投手と似たタイプとなり、障害予防の観点から適切なコックアップ(投げるための準備)動作と言える」と強調する。

二刀流にもメリットがある

 大谷選手の二刀流について否定的な意見も多いが、馬見塚さんは二刀流を続けることは以下のようなメリットがあると語る。

 一つ目は、投手と野手では主な動作に違いがあるので、使用する筋やストレスを受ける部位が分散する点を挙げる。たとえば、投球では肩肘を痛めやすいが、打撃では腰椎を痛めやすい。このため、トータルの運動量を投手専門選手や野手専門選手と同等にするように配慮すれば、どちらかを専門にしている選手に比べ同じ部位にかかるストレスは減らすことができる。

 トレーニングには、質や量を分散させバランスよく鍛えるのがよいという「全面性の法則」があるが、二刀流は専門選手に比べて、全面性の法則があてはまり、自然とバランスよく鍛えることができるという。

 二つ目は、野球は「相手の心理や戦術をよむ」ことによって良い結果を出すスポーツであるが、大谷選手は二刀流をすることによって投手と打者の両方の心理や戦術を経験すること機会を得る点を挙げる。一般に、捕手は打者であるとともに投手の気持ちを理解することが求められており、投手心理を読むのが上手だといわれる。大谷選手の二刀流の経験は、投手であるにもかかわらず捕手の「よむ」能力を獲得できる可能性があり、さらにこの経験は将来新しいタイプの指導法の確立や、指導者となる可能性も秘められている。

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