桐生知憲の第四社会面

2015年10月28日

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 前置きが長くなったが、9月30日は不思議な1日だった。これはさる中国関係者によると、朝日が一面で報じると、中国当局はすぐに拘束の事実を公表し、中国国内メディアが一斉に日本がスパイ行為を行ったという内容で報道が相次いだという。スパイ容疑で拘束されているのは事実だが、中国当局は何カ月にもわたって拘束しており、このタイミングで親中国とされる朝日が報道し、即座に反応する中国当局というのもいろいろ勘ぐってしまう。

 その後の展開はご承知の通りで、日本のメディアは男性3人の人となりを書きまくる毎日。スパイとは書かないまでも、それを疑わせるに十分の内容だった。共同通信は、「2人は公安調査庁の依頼に応じて」と配信。その後、ある安倍政権応援新聞は浙江省で拘束された男性は「公安調査庁の元職員だった」と書く始末。筆者はこの記事は誤報だと思っているが、日ごろ国益優先を説く安倍政権応援新聞が明らかに中国を利するようなことを書くのはいかがなものか。

 外事を中心に情報部門に長年携わる人物は、「拘束された奴らはたいしたことをやっているわけでもないのに、中国の戦略にはまってしまっている。来るべき日中首脳会談で中国側のカードに使われるだけだ」と日本の騒ぎ方を危惧していた。

経済の低迷で「反日」の喚起が目的か?

 ある中国専門家は今回の拘束について次のように語っていた。「日本をこらしめるためというよりも、今回の拘束は中国国内の問題だとささやかれている。中国経済が翳りを見せ始める中、国内世論をまとめるために最も手っ取り早いのが『反日』。経済の翳りに加えて格差の拡大やウイグル問題で習近平政権に対して向けられる不満を反日で逸らすことが目的だった」と見る。仮に来月1日に予定されている日中首脳会談でこの件を中国側がカードとして切りだした場合、中国国民は政府が日本に対して強く出たと評価する可能性が高い。こうしたことを見計らった上での今回の発表だったのかもしれない。

 協力者であることを認めていない公安調査庁だが、その意図は何だったのか。公安調査庁は、オウム真理教の後継とされる教団や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)といった国内の団体のほか、中国やロシアなど諸外国の動向について情報収集を目的とする情報機関で、日本版NSCの国家安全保障会議にも情報の提供が求められるなど、政府の情報収集・分析機能を担っている1組織である。

 今回の件について、公安調査庁と犬猿の仲であるとされる警察サイドからは、当然のことながら公安調査庁の悪口しか聞こえてこない。ある警察関係者などは、「去年から今年にかけて公安調査庁が中国に行ける民間人で協力してもらえる人を多数募集していた。誰でもいいというような感じだったが、こういうことをやってもらうには、きっちりした人物であるか見極める必要があるはずだ」とあきれていた。

 表向き公安調査庁は拘束された人物たちが協力者であることを認めていないが、仮にこうした組織に運用された人たちによって、日本批判されるのは極めて残念である。ある公安関係者は公安調査庁の情報収集の実態について、「公安調査庁は常に組織存続の危機にさらされている。不要だとされながら地下鉄サリン事件を受けてオウム真理教を監視する『仕事』を得て廃止の危機を免れた。最近ではISなどの中東といった外国情報に関して関係されると見られる人物に片っ端から声をかけていると聞く。公安調査庁が目の敵としている警察や内閣情報調査室と外国情報で差をつけたいと無理をしたのが今回の拘束だろう」と分析していた。

 なお、筆者は国益を優先すべきだという論者でもなく、ましてや日本にスパイ防止法を求める意見の持ち主ではないことをお断りしておく。

  
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