日本人をスパイ容疑で拘束したと中国が発表してから間もなく1カ月となる。この衝撃が走った先月30日、発表前に一部で報道されていたが、なぜこのタイミングだったのか? また、このふたりは日本の情報機関・公安調査庁の協力者であるとされているが、日本の公安当局は中国で何を探っていたのか。情報は断片的で詳細は明らかになっていないが、筆者がこれまで得た情報をもとにたどってみたい。
拘束が明らかになったのは9月30日だった。朝日新聞朝刊一面には「中国で日本人2人拘束」の見出しが躍った。拘束は「5月から」でその容疑は「スパイ行為」だという。その日のうちに中国当局は拘束が事実であることと、その容疑がスパイであることを認め、公表した。その後、新聞やテレビは拘束されたうちの1人が北朝鮮から脱出した「脱北者」で、中国と北朝鮮のいわゆる中朝国境で情報収集をしていたと報道。
もう1人については浙江省の軍事施設周辺で拘束され、軍事施設の写真を行っていた可能性があるとの報道だった。その後、もう1人の日本人男性が拘束されていたことがわかったほか、今月の中旬には日本語学校関係者の女性も拘束されていることが明らかになっている。これらの4人はいずれも民間人で、女性を除いた3人の男性は公安調査庁の依頼に応じた「協力者」の可能性が指摘されている。
一部のジャーナリストには公然の事実だった
一方の日本側は、菅官房長官が9月30日の記者会見で、「日本政府が中国にスパイ行為に関与する民間人を送り込んだという事実があるのか」という質問に対し、「我が国はそうしたことは絶対にしないということを、これは全ての国に対して同じことを申し上げておきたい」と日本のスパイであることを強く否定した。また、公安調査庁は、3人の男性が協力者であるかどうかについて、「コメントは差し控える。民間人を送り込んで、いわゆるスパイ活動することはしていない」とコメントしている。
負け惜しみに聞こえるかもしれないが、筆者は複数の日本人が拘束されていることを少なくとも朝日が報道する前に知っていた。どのくらい前からかは種明かしにもつながるので控えるが、この情報をつかんだ際、すぐに報じることはためらわれた。こう思った公安・外事の界隈にいるジャーナリストは筆者だけではないはずだ。
公安調査庁のような情報機関が民間の協力者を使って情報収集をするのは公然の秘密であり、情報戦の世界では当然のことだからだ。公安調査庁という日本の機関が使っている人物が中国でスパイとして拘束されたら、日本が批判されることになり、中国に付け入る隙を与えられかねないからだ。今回拘束された容疑は中国が去年作った法律にそったものかもしれないが、こうした行為はどこの国でもやっていることだ。日本国内ではそれを取り締まる法律がないから、日本は「スパイ天国」と揶揄されているぐらいだ。