「いいがかり」。辞書でこの言葉の意味を調べると、人を困らせるために言い立てる口実などとある。朝日新聞が、原発事故が起きた当時、東京電力福島第1原子力発電所長だった吉田昌郎氏が政府の事故調査委員会に対して話した内容、いわゆる「吉田調書」記事を取り消したことについての是非や意見が書かれた『いいがかり』(七つ森書館)という書籍が出版されている。
本書の内容を詳しく述べることはしないが、朝日新聞の当時の記事とこの本を読んで「吉田調書」をめぐる一連のいきさつを考えると、表現に行き過ぎはあったものの誤報とは言えず、むしろ誤報として取り消させようといいがかりをつけた勢力に朝日新聞が屈したという印象だ。それなりの理屈はあるのかもしれないが、自分の気に入らないものにいいがかりをつけ、謝罪させて自分の主張を通すという風潮が現代社会にはびこっているように思う。
この「いいがかり」を最近起きた小型の無人機「ドローン」をめぐる2つの事件で考えてみたい。1つは日本の中枢である総理大臣官邸の屋上でドローンが見つかった事件で、もう1つは15歳の少年が浅草の三社祭でドローンを飛ばすことを予告して逮捕された事件だ。ドローンを飛ばすこと自体を取り締まる法律がない中で、いずれも威力業務妨害という容疑が適用された。
世界でも相次ぐ原発や軍事施設の周辺で
不審なドローンの飛行
小型の無人機「ドローン」は、例えるならば、ラジコンヘリに近い。大きく分けて、▼操縦者の無線操作によって飛行するタイプ、▼目的地等をあらかじめセットした上でGPSなどを利用して自律飛行するタイプの2種類に分けられる。とはいえ、操縦はかなり難しいとも聞く。
アメリカでは今年1月に情報機関の職員がホワイトハウスの敷地内に誤ってドローンを落下させてしまい、一時周辺が閉鎖される騒ぎになった。フランスではエッフェル塔やパリの大使館近くの上空でドローンが飛んでいるのが目撃されているほか、去年10月以降、原発や軍事施設の周辺で不審なドローンの飛行が相次いでいるという。
海外ではドローンを規制しようとする動きが広がっていたが、事件が起きるまでは日本では地上から近づくことができない災害現場の撮影などプラスの面での活用が模索されていた。
今年4月22日の午前。総理大臣官邸の屋上でドローンが発見された。見つかったドローンは、中国のメーカー「DJI」製の「ファントム2」シリーズで直径約26センチのプロペラが4つあり、本来は白であるはずの色が黒く塗りかえられていたという。小型のデジタルカメラのほか、2本の発炎筒と放射性物質を示すシールが貼られたプラスチックの容器が取り付けられていたことが関係者をあわてさせた。
このニュースを伝えるテレビの画面からは現場で捜査にあたっていた捜査員の緊迫した面持ちがうかがえた。警視庁公安部はその日のうちに捜査本部を設置して、犯人探しにやっきになった。