2024年12月22日(日)

桐生知憲の第四社会面

2015年7月14日

 今月2日の夜、北京の大使館ルートを通じて、北朝鮮が日本人拉致被害者などの再調査についての報告を延期したいと日本側に伝えてきた。去年の5月、スウェーデンのストックホルムで日朝局長級協議を開催して、日本人拉致被害者に関する再調査を実施することで両政府が合意した(ストックホルム合意)。合意した再調査の内容は、拉致被害者のほか、

 ▼拉致の疑いが排除できない行方不明者

 ▼終戦前後に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨

 ▼残留日本人と日本人妻というものだった。

「せいぜい1年以内」(菅義偉官房長官)は
両国で合意していた期限だったのか

 去年の7月4日には北朝鮮が特別調査委員会を設置して調査を行っていた。委員会設置から1年となる直前に、報告の延期を通知してきた北朝鮮の狙いは何なのか。日本側が再調査の期限としていた「せいぜい1年以内」(菅義偉官房長官)は本当に両国で合意していた期限だったのか。

5月31日に東京で行われた朝鮮総連設立60周年集会(REUTERS/Aflo)

 国家安全保衛部。今回の再調査では、この組織が主導権を握るとされた。これは日本側の要求でもあり、実際にこの部の徐大河副部長が特別調査委員会の委員長となった。過去には、外務省の田中均・アジア大洋州局長(当時)が国家安全保衛部の柳敬副部長と極秘交渉を進めた結果、2002年の日朝首脳会談につながったとされる。国家安全保衛部は金正恩第一書記直轄の組織とされる秘密警察で、拉致被害者を担当しているとも言われていた。

 こうした日本側の要求が通ったという背景があるため、「拉致問題は進展する」と日本国内の期待は高まった。高齢化する未帰還の拉致被害者家族はなおさら被害者が帰ってくることを信じて疑わなかったことだろう。

 しかし、である。当初、北朝鮮の第1回の報告は、「夏の終わりから秋の初め」とされていたが、北朝鮮は去年9月、調査は初期段階にあり、調査全体で1年程度を目標としているとして1回目の報告を先送りにした。去年10月には日朝両政府の公式協議が行われたが、具体的な話はなく、その後は水面下の協議が続けられただけで、今月2日の結果報告の延期通知に至ったのだった。

北朝鮮は安倍総理を信用していない

 「これはかの国と深い関係がある人物から聞いた話だが、国家安全保衛部では拉致被害者を調査できない。本当に権限を持っているのは別の組織だ」。再調査が始まった頃、筆者は日朝関係筋から打ち明けられたこの言葉が忘れられない。その組織の名前はあえて記さない。なぜなら、その組織こそが重要というわけではなく、こうしたメッセージが届いている段階で、日本側が情報戦に敗北していることを示していると筆者は考えるからだ。

 さらに、この人物は「北朝鮮は安倍総理を信用していない」と話した。これは、2002年に拉致被害者5人が帰国した際、5人を北朝鮮に”帰国させる”とした約束や北朝鮮に対する経済支援の合意を日本側が守らず、この決定には当時、官房副長官だった安倍総理が深く関わったと北朝鮮側が見ているからだ。

 この人物は、この時以降もこのような北からのメッセージを幾度となく聞いたという。確かに、この人物の“ルート”がすべてではないが、筆者は日本側が報告期限とした1年となっても動きはないと予想していた。霞が関界隈の多くの関係者も同様に予想していたことを付け加えておく。


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