桐生知憲の第四社会面

2015年7月14日

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 拉致を最優先するとした日本と、日本人遺骨や日本人妻の報告をまずできるとした北朝鮮。ここにも溝がある。罪もなく異国にさらわれた日本人を真っ先に返すよう主張するのは当然のことと言える。ただ、日本側は「拉致が最優先」とする主張が、両国間で合意していたかは極めて疑わしい。

 筆者が最も気になったのは拉致の疑いが排除できない行方不明者の取り扱いだった。警察庁は可能性が排除できない人は870人余りとしているが、ある警察幹部は「本人を見つけるか、死亡していたという証拠がない限りは可能性ありとなってしまう。(870人あまりの大半が)北朝鮮に拉致されたとはとてもではないが言えない」とその実態を話す。

 このリストを北朝鮮に示しているとされるが、再調査開始以降、日本国内で見つかっている人がいて、「このリストは日本の信頼性を失わせ、北朝鮮につけこまれる一因になるかもしれない」(別の警察幹部)。

「圧力」の狙いは北朝鮮から「再調査打ち切り」を
言わせるための口実作り

 拉致を錦の御旗にして、北朝鮮に強硬姿勢を示す日本。結果報告の延期通知でさらなる「圧力」を求める声が高まっている。「圧力」になるとされる警察の捜査はどうか。

 今年3月、北朝鮮産の松茸を不正に輸入した事件で、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬議長の自宅が捜索された。この捜索についてある警察幹部は、「法と証拠に基づいて捜査した結果だ」と話した。この事件のそもそもの捜索があったのは去年5月で、ストックホルム合意よりは前だったので、日朝間に大きな影響はなかったように当初は見えた。

 その後、議長の次男が逮捕されることになるが、議長の自宅から押収されたのは携帯電話1台だったと議長自らが捜索後の会見で語った。実際に捜査関係者も「本当に携帯電話だけだった」と筆者に証言していた。この件について、北朝鮮は「このような状態では、政府間の対話もできなくなっている」と批判した。

 法と証拠に基づいた捜査ではあるだろうが、警察関係者であればこうした捜査がどのような影響が出るかは予想されるであろうし、建前だけの司法の独立であることから考えれば、議長宅の捜索を官邸が承認したことは間違いない。

 別の捜査関係者は、「議長宅以外からの押収品には北朝鮮本国が指示したと証拠があった。朝鮮総連の中央本部を捜索することもできるが、影響の大きさを考えて今回は見送るとの判断があったようだ」とその内幕を披露した。影響の大きさから中央本部の捜索を見送ったとするのであれば、とてもではないが法と証拠に基づく捜査とは言えまい。

 実際に、不正輸入事件で逮捕された人物が経営する会社は、中央本部内に事務所を構えているとされ、そうであるならば中央本部を事件の関係先として捜索することは自然であり、捜索しないほうがむしろ不自然なのだ。

 この事件のあとも、警視庁が朝鮮大学校の関係者宅を捜索することがあった。また、不正輸入事件を手がけた京都府警以外の警察が中央本部を捜索するのではないかという噂も出ている。こうした背景には、再調査が進まないことへの「圧力」があるとされる。

 ただ、これまでの圧力で拉致問題が進んでいないことは衆目の一致するところだ。そこで筆者はうがった見方をする。こうした圧力は、そもそも再調査に勝算を持っていなかった日本側が、北朝鮮から再調査を打ち切ると言わせるための口実ではないだろうか。

 北朝鮮といえば「拉致」としか思い浮かべなくなってしまっている日本。国家犯罪による被害者を取り戻すことは最優先であることは間違いない。批判を承知で書くが、拉致被害者が全員生きていること以外の報告を認めないという外交交渉は、あまりにも日本側だけの目線だ。

 外交は相手があってのことで、言い方は悪いが、落とし所を再調査合意時点で日本は考えておくべきだった。政府は実際に考えていたのかもしれないが、今はその時期ではないだけなのか。1年でダメだったものが、日本が次の結果報告の期限とする9月までの2カ月間で進展があるとはとても思えない。

  
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