2024年12月6日(金)

桐生知憲の第四社会面

2015年9月8日

 特定の人種や民族に対し差別をあおる、いわゆるヘイトスピーチを禁止する法案、「人種差別撤廃施策推進法案」が今の国会で審議されている。民主党などの野党が提案し、差別に苦しむ人たちは早期の成立を望んでいるが、先月6日の参議院法務委員会で審議されて以降、動きが止まっている。

ヘイトスピーチは「表現の自由」ではない

 安全保障関連法案ばかりが重要と考えているのか、自民党・公明党の与党側は今国会での採決を見送る方針だという報道もあった。ヘイトスピーチと「表現の自由」の兼ね合いを危惧する声もあるが、人種差別という禁止して当然のことを禁じることもできない国に、世界中から多くの人が集まるオリンピック・パラリンピックを開催する資格はあるのだろうか。

法案成立に向けて9月2日に行われた院内集会

 今月2日、法案を成立させようと院内集会が開かれた。関西学院大学の金明秀教授は、過去に自身が入居をめぐって差別を受けたことを紹介した上で、マイノリティーの差別の実態調査を精緻に調べる必要があると訴えた。金教授によると、地方自治体は差別があるかどうかを調査しているが、マイノリティーではなくマジョリティーの一般大衆に質問しているため、人種差別の実態が浮き彫りなっていないという。在日外国人などのマイノリティーを政府が中心となって調査をするための根拠として、この法案が絶対に必要だと強調した。

 なぜ調査するための法律が必要なのか。日本政府はこれまで、日本では深刻な差別扇動が行われていないという立場を一貫して取り続けている。しかし、東京の新大久保や大阪の鶴橋など日本各地で行われてきた「在日特権を許さない市民の会」などの右派系市民グループによるデモや街宣を目撃したことがある人なら、誰もが日本政府の立場は「おかしい」と思うはずだ。在日の韓国人・朝鮮人などに向けて「ゴキブリ、蛆虫」「殺せ」「叩き出せ」と叫ぶ。

 書くだけでも反吐が出る文言だ。こんなことがまかり通ってしまっている国に深刻な差別扇動は行われていないと断言する政府には首をかしげざるを得ない。だからこそ、実態を調査するための根拠として法律が必要なのだ。

 採決に慎重な姿勢を示す与党側。その根拠の1つとして「表現の自由」があるという。確かに、権力側の恣意的な解釈によって法規制が乱用される可能性は全くないとは言えないのかもしれない。しかし、法案では「人種等を理由とする差別」の「『人種等』とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」と明確に規定している。ここまで規定しているのだから、そんな簡単に乱用されるわけがないと考えるのが普通だし、何よりも先に記したデモや街宣での言動、さらにはインターネット上を飛び交う差別的な書き込みにより苦しんでいる人は多い。筆者も“被害”に遭った人たちの話を実際に聞いてみると、日本人では想像できないほどに打撃を受けていると感じた。


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