2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2015年12月8日

 知的障がい児・者のサッカースクールは、日本ではまだ黎明期にある。2003年に東京都江東区に誕生した特定非営利活動法人トラッソスは、その先駆けとなっている。設立12年が過ぎ、トラッソスが中心となって開催しているサッカー大会も今年で8回目を数えた。トラッソスの設立者である吉澤昌好氏に、知的障がい児・者サッカーの今を聞いた。

トラッソスは日本ではまだ珍しい知的障がい児・者のためのサッカースクール。障がいの重さに関わらず一緒にプレーし、みんなで笑顔になれる時間を過ごしている(写真:トラッソス提供)

疑似体験ができない知的障がい

 「知的障がい者と身体障がい者との大きな違いって、見た目ですぐ分かるかどうか、にあると思っています。車椅子に乗っていたり、松葉杖をついている方とすれ違うと分かりますよね。でも、知的障がい者って、気づかれないことが多く、見た目で分からない苦しさがあるんです。また、車いすやブラインドサッカーは疑似体験できることから、徐々に身近なものになりつつあるようですが、知的障がいは疑似体験ができないんですよね。

 知的障がい児・者にとって大事になるのは、まずは自尊心だと思います。『ここにいていいんだ』って自分の存在を自分で認めることなんです。知的障がいでも、中度や重度になると、そんなことは考えていないように思われがちです。でも、スクールをしていると顕著なのですが、自分が認められたって分かると、体育館の中央に出てくるんですよ。そうじゃないと端っこにいるんですよね。みんな感じているんです。『何でオレ、周りと違うんだろう』って。そして『何だあいつ』っていう感じで見られたりする体験を日常的にしているんです。自尊心を折られている状態にあるんですね。心が折れちゃってる。だから、『俺のことなんてほっとけ。どうせ俺なんか』って気持ちから始まることも多いんです。

知的障がいとは

 知的障がいとは、日常生活や学校生活で頭脳を使う、例えば金銭管理や読み書きなどの活動に支障があることを指す。乳幼児期には言葉に遅れが出たり、同年齢の子どもとの交流が上手くいかないといった兆候が見られ、小学生になると理解力や記憶力の問題から授業についていけないことが多いなど、幼少期から様々な問題が顕在化する。

 このため知的障がいを持つ子どもは支援学級を使ったり、特別支援学校を選んだりする。高等部まである特別支援学校では、学習や生活における力をつけ、自立を図るために必要な知識や技能を学ぶことができる。しかし、吉澤氏が心配しているのはむしろ高等部卒業後である。「高等部卒業は高等学校卒業の資格ではないんです。日本の法律で、特別支援学校の子どもたちは学校の斡旋で就職をします。ただ、その職業もまだまだ幅が狭い。作業所でのシール貼りなど閉ざされた環境での仕事が多く、例えば、学校やメトロの掃除など、もっと社会の目に触れるような場所での就労も増えて欲しいなと思っています。そして不況の影響もあり、知的障がい者にとっての仕事が不安定で、継続していくことがより難しい状況にあることも懸念しています」


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