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2016年7月21日

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吉田光宏 (よしだ・みつひろ)

ジャーナリスト

1954年広島県福山市生まれ。広島県立府中高校、中央大学を経て、新聞社記者に。1993年~94年米スタンフォード大学ナイトフェローシップ留学。20年間の新聞社勤務の後1999年に独立。国内外の自然環境保護、農林水産業などを取材&執筆している。日本環境ジャーナリストの会員、農政ジャーナリストの会会員。メディアコーディネーター、ビジネスプランナーも務める。著書に『農業・環境・地域が蘇る 放牧維新』(家の光協会)『広島県の農業を知るとカープを応援したくなる: 日本の農業は生き残れるのか』など。

地域の雇用確保の責任

 農業取材で過疎問題に触れることが多い筆者には、川戸社長の「企業は、その地域の人々に働く場所を確保することが第一の役目」という一言も新鮮だった。一次産業以外にめぼしい産業がない地方では、企業誘致による振興を進めてきたが、本社の業績が悪くなれば工場は撤退、閉鎖によって地域雇用は失われる。

 地域に根ざした「地域で仕事を取り合うビジネスに未来なし」という経営哲学も持っている。そのために国際競争にも負けないシステムを工夫してきた。ロボットによる24時間稼動のテクマックの粗利は0.9%とわずかな儲けしかなく、人件費の安い海外製品の参入意欲を削いでいる。

 女性に話題を戻すと、人口減少や地方の衰退は「子どもを産むことのできる」女性の数にかかっている。若年女性(20~39歳)人口が2010年から2040年までの30年間で5割以上減少する自治体は「消滅可能性都市」とされる。女性が都市に流出すれば地方の疲弊が加速する。「そうならないために、何よりも女性の雇用の場を確保すべきです。地域の役所の女性採用を増やせば、あおりを食った男性が地元の民間企業で頑張って地域に活力が生まれます」。提言は肌で感じている危機感から生まれている。

 これまで「出る杭は打たれるから」と、メディアの取材申し込みを断っていたが、知名度を高めて優秀な人材を確保しよう、と方針を転換。昨年地元テレビの特集番組で紹介されると、家族や従業員が「いいね!」と評価し、職場の雰囲気はさらに明るくなった。多様な人材を生かした経営を評価する経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」(2015年)にも選ばれるなど社会的な認知度も高まっている。

 京都府出身で「ロータリーエンジンを作りたかった」と広島のマツダに入社した川戸社長。起業して以来、夢と理想の実現に取り組んできた。「経営者がだれになろうと、カワトの雇用システムをしっかりと引き継いで行ってもらいたい」。小さな町に芽生えた新しい働き方は、日本企業の生産性アップ、潤いのある社会実現への期待を膨らませてくれる。

  
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