科学で斬るスポーツ

2016年8月10日

»著者プロフィール
閉じる

玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

ボルトとガトリン(写真:ロイター/アフロ)

 リオデジャネイロ五輪陸上男子最大の注目は、ジャマイカのウサイン・ボルト(29)が、100mで北京、ロンドン五輪に次いで前人未到の五輪3連覇を達成するかだろう。わずか10秒弱で、世界最速男を決める競技は、世界が固唾をのんで見守る一瞬のドラマでもある。ボルトはジャマイカ予選では、決勝に出ず、特例枠で五輪出場を決めた。三連覇に向け調整するボルトの前に立ちはだかるのは、年齢を重ねるごとに記録を伸ばす米国のジャスティン・ガトリン(34)だ。昨年、北京で開かれた世界陸上100m決勝でも顔を合わせた2人。わずか100分の1秒差でボルトが逃げ切った。リオ五輪は、「神の領域」とも言える9秒58秒の世界記録を持つボルトと、今季世界最高の9秒80をマークし、波に乗るガトリンの一騎打ちになりそうだ。どちらに軍配があがるか、15日の決勝が今から待ち遠しい。

図1 昨年の世界陸上北京大会で、100分の1秒差で勝敗を分けたボルトとガトリンのゴール時のスケッチ。五輪でもこの再現になるか。

年齢重ねて、絶好調のガトリン

 まずは、図2のボルトとガトリンの過去の成績を見て欲しい。

図2 ボルトとガトリンの成績
拡大画像表示

 ボルトは2004年のアテネ五輪でデビューし、出場した200mは一次予選で敗退。飛躍は08年の北京五輪で、当時世界記録の9秒69をマークした。当時、男子の記録はどこまで伸びるか、スポーツ科学、統計学の研究者らが過去の世界記録を基に予測した。それは9秒66が限界というものだった。

 しかし、ボルトは09年のベルリンの世界陸上で、9秒58と難なくその予測を塗り変えた。200mの19秒19とともに、今も破られていない世界記録を樹立した。12年のロンドン五輪も100m、200mを制し、五輪短距離二種目を連覇した。今季は脚の違和感も伝えられるが、国内大会で9秒88を記録している。しかし、競技以外での多忙さと、年齢を重ねての筋力の低下からボルトの退潮を指摘する専門家もいる。

 一方、ガトリンは04年にアテネ五輪で金メダルを獲得。06年に当時、世界記録タイの9秒77をマークした。その後、08年にドーピングが発覚し、4年間の出場停止処分を受けた。そして復帰後の12年、ロンドン五輪100mでは、ボルトに0.1秒差をつけられ、銅メダルに終わった。しかし、その後の進化はすさまじい。14年に9秒77、15年は9秒74と32,33歳を過ぎてから自己ベストを更新し続ける好調ぶりを見せている。その裏には、体の小ささと、その小さな体を知り尽くし、それを生かす巧みな技術があると言われる。ボルトは身長1m96、体重96kgに対し、ガトリンは1m85、体重82kg。100mという競技は、大きな筋力、瞬発力を同時にださなくてはいけない。若い時は、体の大きさ、すなわち筋力の大きさがプラスに作用するが、年齢を重ねた時に、若い時の筋力を維持するのは並大抵ではいかない。体の大きい選手ほどバランスを失いやすく、体が小さい選手の方が有利というわけだ。しかし、これが今のボルトにあてはまるかはわからない。それほどボルトは「超人」であるからだ。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る