足立倫行のプレミアムエッセイ

2016年10月16日

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熟慮の結果

 ところで、江戸時代まで天皇の「生前退位」は頻繁にあったのに、なぜ新(旧)皇室典範には退位規定がないのか。1984年の国会で宮内庁次長が挙げた理由は次の3点だ。

①退位した天皇が天皇を超える上皇・法皇になって、二重権威の弊害が生じ得る。

②天皇の自由意志に基づかない退位の強制があり得る。

③天皇が恣意的に退位すると、憲法に定める象徴天皇の理念と矛盾してしまう。

 しかし、どうなのだろう。①の念頭にあるのは平安・鎌倉時代の院政だが、現代で起こり得るだろうか。むしろ、皇學館大学講師の村上政俊氏が言うように、「天皇を上皇陛下が輔導し、皇太弟殿下が支える」「明るい院政」(『新潮45』10月号)が生まれるかもしれない。

 ②③にしても、今の皇室典範の摂政を置く時の規定、「精神若(も)しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからできないとき」を、そのまま「摂政設置か退位」の規定として適用できそうだと思うのである(あるいは、文面の条件の中に“高齢”も加えるか)。

 いずれにせよ、職業選択の自由がなく、婚姻の自由も表現の自由も大幅に制約されている、「日本国民の総意に基づく」象徴天皇が、加齢に伴う体力の限界について熟考された結果、「退位したい」と訴えておられるのだ。

 報道によれば政府は、皇室典範には手をつけず、今の陛下に限って「生前退位」を認める特例法を制定する方向で検討中だという。

 けれど、それではあまりにもおざなりではなかろうか。皇族が減少一途の昨今、宿題だった女性宮家の再検討なども含め、「生前退位」についてはやはり本格的に協議して皇室典範を改正すべきだと思う。

  
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