2024年4月26日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年3月19日

 実は心だってそうかもしれない。人を好きになるときだって、見かけだけで好きになるわけじゃないし、見かけだっていろんな角度があるし、しゃべりとかいろんな要素があります。最初はいろいろゆらぎながらでたらめに何かしているうちに、だんだんその人に惹かれるようになる。さらに少し動くとさらに惹かれて好きになっていく、というものじゃないでしょうか。

 人間の中身は機械で再現できてしまう。生体原理に基づけば、心のゆらぎも再現できる可能性がある。では、体を機械に置き換えた人間に残るものはなんなのか。ロボットと人間の差はなんなのか。人間とは何か。何が人間を人間たらしめているのか。

 そこを考えるのに、ヒントは3つあると思っています。一つは、自分は自分のことを他人ほどは知らないこと。それから、人に歴然とした心はなく、相手に心があると思うから自分にも心があると信じているということ。そして、心とか感情とか意識は、社会的な関わりの中でこそ確信できるということ。

 私自身はこう考えています。心の存在は強く感じる。でも感じるがゆえに、心の存在に疑問をもちます。ロボットを研究すればするほどその疑問は強くなります。でも、そうやって人間とは何かを考えることこそが、人間として生きることであり、働くことなんだと。

 そのためには、人は人を映し出す鏡であり、人と関わらずして人は人になれないと認識すべき。人と関わって社会的な関係を持つから、心を感じることができるし、心とは何か、人間とは何かを考えることができる。だから仕事や恋愛は非常に重要なんです。どんな仕事でも、どんな恋愛でも。

●それが、「人間とは何か」という問題への最終の答ですか?

――少なくとも、私が生きている間はこれしか答はないだろうと思います。人間とは何かはわからないけれども、漠然とわからないのではなく、人間がどれだけ複雑か、どれだけ神秘的かが研究の中で少しずつわかるようになってきている、という感覚があります。たとえば、山に登ろうというときに、霧がかかってどれだけ高いかわからないんじゃなくて、近づくほどいかに山が遠いかがわかってくるのに近い。そういう境地ですね。

※後篇は後日公開予定です。

◎略歴
■石黒浩〔いしぐろ・ひろし〕大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)フェロー。1963年生まれ。人間酷似型ロボット研究の第一人者。ロボット工学と認知科学、脳科学を融合し、人間とは何かを探るアンドロイドサイエンスを提唱。京都大学大学院助教授、和歌山大学システム工学部教授などを経て現職。

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