2024年4月26日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年3月19日

 ジェミノイドの世界がきたらどうなるか。それを描いたのが映画「サロゲート」。映画では、人々は完全に自分を表現したロボット(サロゲート)を安全で快適な部屋から操作して生活しています。それは犯罪も痛みもない理想的な世界。化粧とサロゲートの対比、携帯電話とサロゲートの対比、「あなたはあなたのサロゲートに似ている」というセリフなど、いろいろと示唆に富む映画です。

●映画では最後、人間は救われるのにサロゲートは救われませんよね。

――誰でもわかるように、映画館を出たあと安心してもらうように、ああいう描き方にしたんだと思いますね。最先端技術で作られる近未来社会を検証すると同時に、人間や人間社会の本質を問いかけている映画でしたが、現実は映画を超えてくるものだとも思います。

 その点で特徴的なのは、アンドロイドの電源を切ったときの様子。空気が抜けてだんだんしぼんでいくんですが、見た人はそこに人間の死を感じるんです。アンドロイドは人間よりも人間らしい死に方を表現できるんじゃないかと思います。では、アンドロイドは人間を越えられるのか。その挑戦を私は始めているところです。

 一つは、人よりも人らしいアンドロイドを作ること。いわば人間のマキシマムデザインです。人間より豊かな表情を持ち、言語の表現能力が非常に高いアンドロイド。それに人間らしい社会行動をプログラムすれば、普通の人よりはるかに完璧な人間ができあがるのか。そういうものを人はどう受け止めるのか。何に使うのか。それを見てみたい。

●そんなのができたら、人間はもういらなくなりそうで怖いです。

――一方で、私は人間としての最低限の形も追求したい。ミニマルデザインの「ジェミノイドM」です。目は動きますが、顔の造作はごくシンプルなもの。ジェミノイドは一体1000万円はしますが、ジェミノイドMは最終的には数十万円ぐらいで大量生産したい。人の見かけはどこまでそぎ落とせるのかが知りたい。それをジェミノイドとして使えば、誰もが誰もの姿形を思い浮かべることができるようなもの。誰もが適応できる代理になるかもしれない。

 おそらく、人間は姿形の奥に人間の本質がきっとある、と信じたいはず。でも、きっと人にも心はないんです。ただ、みんなが互いに心があると信じているので、自分にも心があると信じられる。ゆえに、ロボットにだって心を持たせることはできる。

 それでも、やっぱりアンドロイドは機械で人間とは違うじゃないか、と人は思うわけです。では、機械と人間の最も大きな違いはなんなのか。

 人間の脳は、電気に換算すると1ワットしか食わない。でも、人間と同じような複雑な機能を持ったスーパーコンピューターは、5万ワットも使います。根本的な違いは、人間のような生体がゆらぎ(ノイズ)を利用していること。分子から細胞まですべてがゆらいでいて、それを自然なままに利用している。ゆらぐというのは、0か1かではなく、0.1もあれば0.01もあるということ。反対に、コンピュータは膨大なエネルギーを使ってノイズを抑え、0か1かの世界を作りだします。

● きれいに0か1かにするには、すごい電圧をかけなければいけないわけですね。

―― もしもコンピュータがゆらぎを用いれば、非常に生体に近いロボットができる可能性があります。たとえば私が作った複雑な腕ロボットは、自分の腕の構造とか、筋肉が何本あるか、とかは知らない。でも、ちゃんと動かせます。人間も同じ。生まれた直後はかなりでたらめに動きますが、しばらく体を動かしているうちに少しずつ学習し、だんだんうまく動くようになる。
(詳しくはこちら:石黒研究室HP


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