チャイナ・ウォッチャーの視点

中国での日本人死刑執行の落とし穴

有本 香 (ありもと・かおり)  ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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 日本にも冤罪はある。しかし、であるからこそ、死という厳罰が待っているか否かよりも、自身の行動が正しく裁かれず、正義が重んじられないリスクが高いことのほうがはるかに恐ろしいことといえるのではないだろうか。

「何人死んだのですか?」

 話は変わるが、ちょうど2年前、毒ギョーザ事件が起きた直後に、中国のうら若きエリート女性と電話でこの件を話題にしたことがある。このときの彼女の第一声は、「何人死んだのですか?」であった。死者は出ていないと答えると、「え? 死んだ人はいない? ふーん……。では大した問題ではありませんね」といかにも興味なさげな声を出し、そのあと彼女は、「日本人は毒に過敏なのではないですか?」という驚くべき反応をした。

 今回の事件後の「一般市民の反応」報道でも、街ゆく若い女性が笑顔など浮かべながら「死刑は当然」とコメントしている絵が映し出された。これをもって「けしからん」というなかれ。むしろ中国的にはわりにふつうの反応といっていいことだ。

 自分の身内に関することでない限り、「死」や、ときには「殺される」という言葉でさえ割合軽く口にするのは中国人の特徴である。

 では彼らは、死を軽く考えているのか、と思いきやそうではない。むしろ自身の「死」は極端に恐れ、死は「すべての終わり」であり、死後は「暗黒の世界」と捉えるのも中国人の典型的な考え方である。だからこそ、古来中国の権力者たちは「不老長寿の妙薬」の大探索を試みたのだ。

 これには、中国特有の「鞭死の思想(墓を暴き、死者を鞭打つ)」や「九族の報い(失脚すれば一族どころか、九族に累が及び、殺される)」が関わっていると考えられる。

 当コラムの筆者の一人でもある、中国出身の評論家、石平氏がこう話していた。

 「日本留学が決まった時、周りの人から『日本人とは恐ろしい民族だ。何しろあいつらは死ぬのが怖くないんだから』といわれた」

 この見解は、たぶん戦時中の特攻隊等のエピソードがもととなったものであろうし、現代の日本人にそういえば一笑に付すかもしれない。

 日本人の一人としてあえていえば、もちろん死は怖い。ただ、日本人には、人は誰でもいずれ死を迎えるのだから、という一種の諦観が自然に備わっている。「人は必ず死ぬ」という当たり前の運命に激しく逆らうなど意味がなく、むしろ、永遠に生き続けるなんて、そんなしんどいことは御免だという人も少なくないだろう。

 そんな日本人は、「国のために命を捨てる」覚悟が容易いのではないか、と見る中国人もいて、一方で近年、「増強」ばかりが取り沙汰される中国人民解放軍は、「兵士の頭数は多いが、誰ひとり、国のために死ぬことなど考えていない集団」と揶揄する。

 では、日本人が死を軽く考えているのか、というとこれもまた違う。

 2年前の四川大地震の折に日本の救援隊員が瓦礫の中から出てきた遺体に黙とうした光景がテレビで流された際、「見ず知らずの中国人の遺体に対する日本人の礼儀正しさに驚いた」と中国のネット世論が湧いたが、あれは「礼儀」の問題というより、日本人の死生観から出た行動であっただろう。「死んだら皆、仏になる」。そう考える日本人は、誰のものであろうが、遺体を「仏」と呼んで拝むのである。

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著者

有本 香(ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

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