2025年12月6日(土)

JR東海「大阪・関西万博テーマウィーク」

2025年8月1日

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リニア中央新幹線の開業がもたらす未来とは――。5月21日、大阪・関西万博のテーマウィークスタジオにて、JR東海はトークイベント「リニア中央新幹線がもたらすインパクトの最大化〜リニアで未来はどう変わるのか〜」を開催した。地震などの大規模災害のリスクへの対応、巨大都市圏の形成による経済効果、CO₂排出量削減による環境負荷低減など、リニアが社会にもたらす価値について有識者が語った。

テーマ1
「災害に対応する日本の大動脈の二重系化」

 はじめに議論されたのは、災害対策の面でのリニア中央新幹線建設の意義。JR東海社長の丹羽氏は、東京、名古屋、大阪を結び日本の大動脈輸送を担う東海道新幹線が経済・社会活動の活性化に大きく寄与したことを紹介。そのうえで、東海道新幹線の将来の経年劣化や大規模災害等により長期不通となるリスクへの抜本的な備えとして、リニアによる「日本の大動脈の二重系化」を進める必要があると語った。

 「東海道新幹線の地震対策は長年最重要の課題として取り組んできています。しかし、南海トラフ巨大地震では東海道新幹線沿線で非常に強い揺れが予想されており、一定期間東海道新幹線が運行できないということも想定しておかなければなりません。そのために、東海道新幹線が担っている日本の大動脈輸送という役割を、リニア中央新幹線が共に担っていくことが必要です」(丹羽氏)

東海旅客鉄道(JR東海) 代表取締役社長 丹羽俊介氏
東京大学法学部を卒業し、国鉄の分割民営化(1987年)後の1989年、JR東海に入社。主に人事畑を歩み、人事部長、広報部長、総合企画本部長を歴任。2022年6月に副社長、2023年4月から現職。

さらに丹羽氏は、リニアは災害に強いシステムを採用していると話す。「品川̶名古屋間の約86%はトンネルです。地震の揺れは地下深くなるほど小さくなる傾向にあるため、リニアはそもそも地震の揺れの影響を受けにくいと言えます。また、リニアの車両はU字型の『ガイドウェイ』という側壁に囲まれていて脱線しない構造です。さらに、超電導磁石の非常に強い磁力で車両が浮上するとともに、ガイドウェイ中心に保持されるため、安定した乗り物と言うことができます」(丹羽氏)

 また、東海道新幹線は、最近増えている線状降水帯などの豪雨により運転規制せざるを得ないこともあるが、「トンネルが大部分を占めるリニアは雨・風・雪と言った自然災害にも強い」(丹羽氏)ことも紹介された。

世界経済フォーラム 日本代表 石黒不二代氏
米国のネットイヤーグループCEOとして日本市場への上場に導くなど、20年以上にわたるクロスボーダーおよびスタートアップのマネジメント経験を持つ。経済産業省や内閣府など数々の公職を歴任。

 世界経済フォーラム日本代表の石黒氏は、災害に対する抜本的な備えとしてのリニア中央新幹線の意義について、「地震、津波、台風などの災害に常に晒されている日本で、このような災害のリスクに対応するレジリエンスが実現できれば、世界に指針を示すことができるはずです」と評価した。

東京大学大学院 工学系研究科 教授 森川博之氏
モノのインターネット/ビッグデータ/DX、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。2022年から情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)会長。OECDデジタル経済政策委員会副議長などを歴任。

 東京大学の森川教授は、「東日本大震災の際にも多くの海底ケーブルが切断されたが、何本かが生き残ったことで海外から孤立せずに通常の生活を送ることができた」という事例を紹介し、国民生活や社会経済活動において重要なインフラは、災害時の備えとして冗長化すべきと指摘した。

 リニア中央新幹線計画はJR東海の自己負担で進められている。このことについて石黒氏は、「このような抜本的な構造変革には多大な投資が必要で、公の資金だけでは対応に限界があります。また、官民一体で取り組むことが、持続可能で包括的な成長を実現させるということは共通認識になりつつあり、特に、鉄道のようなインフラ機能の整備には官民連携の事例が必要となるので、ぜひ先例を作っていただきたい」と評価した。

経済産業省 イノベーション・環境局長 菊川人吾氏
京都大学卒業後、1994年通産省入省。通商・環境・経済安全保障政策などに従事。在ジュネーブ代表部参事官(2013年WTO・TBT委員会議長)、経済再生担当大臣秘書官、大臣官房審議官などを経て現職。

 経済産業省の菊川氏は、災害に強い国づくりに欠かせない政府機能の分散について、「政府機能も一極集中はリスクが高く、地方拠点への分散が重要です。韓国では政府機能をセジョンに移転しているが、移動に時間がかかって大変とも聞いています。リニアにより時間距離が短縮されれば政府機能の分散を進めることもできるのではないでしょうか」と期待を込めた。

株式会社ティアフォー 代表取締役CEO 加藤真平氏
カーネギーメロン大学などの研究員を経て、2012年に名古屋大学の准教授に着任。2016年からは東京大学の准教授としてコンピュータサイエンスの分野を牽引。現在は東京大学の特任准教授も務める。
【進行役】 経済キャスター 瀧口友里奈氏
東京大学卒。SBI新生銀行などの社外取締役に就くほか、自ら立ち上げた株式会社グローブエイトの代表を務める。2024年世界経済フォーラムヤンググローバルリーダーズに日本人キャスターとして初選出。

テーマ2
「東京・名古屋・大阪が一体となる巨大都市圏形成の経済効果」

 

 続いて議論されたのは、リニアの開業によってもたらされる経済効果。リニアは東京―名古屋間を最速40分、東京―大阪間を最速67分で結ぶ。移動時間の飛躍的な短縮により、日本の人口の半数を超える合計約6600万人を抱える「巨大都市圏」が誕生すると予測されている。

「短時間で移動できれば、人々の交流がより活発となり、新たなイノベーションに繋がるかもしれません。人口減少社会で生産年齢人口も減っていくため、一人ひとりの付加価値を高めることが大事だと思いますが、移動時間の短縮により時間を有効活用できれば、生産性を上げられる可能性もあるでしょう」と丹羽氏は語った。

 菊川氏は、WIPO(世界知的所有権機関)の「科学技術クラスターランキング」という指標に注目する。「論文の発表数などで都市圏のイノベーションの進展を評価するものですが、1位が東京圏、7位が大阪圏、15位が名古屋圏となっており、リニアがこの三大都市圏を結べば世界でも群を抜くイノベーションの拠点となる都市圏が実現します。既にこのエリアは海外から注目を集めており、各国のスタートアップ企業が投資を積極的に進めています」(菊川氏)

 石黒氏は、「超電導リニアの開発と社会実装には、日立製作所や東芝、三菱電機など多くの日本企業の高度な技術が結集しています。かつて日本はハードウェアで世界を席巻していましたが、ソフトウェアの時代には後退してしまいました。技術を統合・結集して包括的なソリューションを作り上げていくことが、新たな日本の勝ち筋となるのではないかと考えています」と指摘した。

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