2025年12月5日(金)

JR東海「大阪・関西万博テーマウィーク」

2025年9月1日

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リニア中央新幹線の開業がもたらす未来とは――。5月21日、大阪・関西万博のテーマウィークスタジオにて、JR東海はトークイベント「リニア中央新幹線がもたらすインパクトの最大化〜リニアで未来はどう変わるのか〜」を開催した。地震などの大規模災害のリスクへの対応、巨大都市圏の形成による経済効果、CO2排出量削減による環境負荷低減など、リニアが社会にもたらす価値について有識者が語った。

テーマ3
「経済・社会の発展と同時に実現できる環境負荷軽減」

 JR東海の丹羽社長は、「日本の旅客輸送において、鉄道は、大きなシェア(約3割)を持ちながら、CO2排出量が少ない(約7%)、環境に優しい交通手段。リニアも、航空機と比較すると、東京・大阪間の1人あたりの CO2排出量は約3分の1程度です」と紹介。「現在、航空機を利用されている方がリニアにシフトするだけでCO2の排出削減に繋がります。リニアの動力源は電気なので、今後、電力供給自体の脱炭素化が進めば、さらにCO2の排出削減が進むと考えています」(丹羽氏)

東海旅客鉄道(JR東海) 代表取締役社長 丹羽俊介氏
東京大学法学部を卒業し、国鉄の分割民営化(1987年)後の1989年、JR東海に入社。主に人事畑を歩み、人事部長、広報部長、総合企画本部長を歴任。2022年6月に副社長、2023年4月から現職。

 石黒氏は、「鉄道のエネルギー消費は道路輸送の6分の1と言われていますが、採算を取るのが難しく日本以外では鉄道のシェアは決して高くありません」と指摘。「リニアは、利便性向上と環境負荷の低減、収益化という〝三方良し〞を達成する世界のモデルケースになるのではないでしょうか」と期待を寄せた。

世界経済フォーラム 日本代表 石黒不二代氏
米国のネットイヤーグループCEOとして日本市場への上場に導くなど、20年以上にわたるクロスボーダーおよびスタートアップのマネジメント経験を持つ。経済産業省や内閣府など数々の公職を歴任。

 続けて、会場では事前に収録されたトークセッションの様子も放映。東京大学農学生命科学研究科の五十嵐圭日子教授は、リニアと航空機の比較をSAF(持続可能な航空機燃料)の観点から解説。航空機のCO2排出削減の期待のかかるSAFだが、木や草から航空機燃料を作ろうとすると、「国内線を飛ばすためだけでも国内の木を全部使い切っても足りない状況」とのことで、「速く移動したいときに航空機ではなくリニアを選択する人が増えれば、実はその方が脱炭素に繋がっていくことになる」と指摘した。

 菊川氏はGX(グリーン・トランスフォーメーション)の普及の観点でもリニアの開業による効果が期待できると話す。「AIの普及などに伴い、膨大なデータを処理するためのデータセンターの需要が増していますが、現在はおよそ90%が大規模需要地に近い関東・中部・ 関西に集中しています。データセンターは莫大な電気を使うので、地方に分散させ、GX電源を活用することで、環境負荷の低減に繋げようとしています。そのようにGX電源活用の動きが社会全体で広がっていることを考えると、それを繋ぐ交通網が重要になってくるので、リニアで各地が結びつくことによって、全体の環境負荷を低減させることが可能になるかもしれません」(菊川氏)

経済産業省 イノベーション・環境局長 菊川人吾氏
京都大学卒業後、1994年通産省入省。通商・環境・経済安全保障政策などに従事。在ジュネーブ代表部参事官(2013年WTO・TBT委員会議長)、経済再生担当大臣秘書官、大臣官房審議官などを経て現職。

 瀧口氏は、「世界経済フォーラムで、昨今のモビリティとCO2排出量の関係で大きな問題として取り上げているのが、都市内部の交通渋滞。リニアで都市機能の分散化が進めば、世界でCO2排出の温床となっている交通渋滞を減らす一助となるはずです」と付け加えた。

【進行役】 経済キャスター 瀧口友里奈氏
東京大学卒。SBI新生銀行などの社外取締役に就くほか、自ら立ち上げた株式会社グローブエイトの代表を務める。2024年世界経済フォーラムヤンググローバルリーダーズに日本人キャスターとして初選出。

テーマ4
「未来の交通ネットワーク形成」

 リニアの開業は、三大都市圏から中間駅への移動時間を大幅に短縮し、神奈川、山梨、長野、岐阜などの中間駅周辺の地域にも大きなインパクトをもたらす。また、東海道新幹線「のぞみ」の利用者の一部がリニアにシフトすることで、東海道新幹線のダイヤの柔軟性がより増すことも期待される 。

 丹羽氏は、「リニアの開業により、例えば、中間駅周辺の地域が二拠点居住のライフスタイルのベースになる可能性があります。また、企業の研究開発拠点をまちづくりの軸に据える地域も出てきています」と紹介。

 さらに「東海道新幹線は、現在、静岡駅と浜松駅に「ひかり」が1時間に1本の割合で停車していますが、リニアの名古屋駅開業後は2本に増やすことを実現したいと考えています」と、東海道新幹線の利便性の向上についても語った。

東京大学大学院 工学系研究科 教授 森川博之氏
モノのインターネット/ビッグデータ/DX、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。2022年から情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)会長。OECDデジタル経済政策委員会副議長などを歴任。

 リニアと未来の交通ネットワークシステムについて、森川氏は「リニアと道路のネットワークにより、太平洋側と日本海側の拠点都市の連結性が高まります。この機会に、改めて日本の国土をどうデザインしていくかを考えることが重要です」と話した。

株式会社ティアフォー 代表取締役CEO 加藤真平氏
カーネギーメロン大学などの研究員を経て、2012年に名古屋大学の准教授に着任。2016年からは東京大学の准教授としてコンピュータサイエンスの分野を牽引。現在は東京大学の特任准教授も務める。

 加藤氏は「モビリティは日本が世界で圧倒的に勝っている分野なので、全力で投資をすれば、日本は世界のどこも対抗できない強い国になれるかもしれない。日本のモビリティのすばらしさは世界から見ると当たり前ではないので、その強みを武器にして経済を考えていくべきです」と強調する。

 

 イベントの最後に、登壇者からは未来に向けたメッセージが発信された。

 森川氏は「日本は様々な産業が強く、経済複雑性において世界トップを走る国です」と話し、加藤氏も「日本の各産業が強いことは、取捨選択ができなかった結果かもしれませんが、すべてが揃っている国はそう多くなく、掛け合わせによって価値を生み出すことができます。今日話題に上がったような未来を実現させていくのは会場に集まっていただいたような若い方々になると思うので、今日の企画がその役に立つものになれば嬉しい」と話した。

 菊川氏も「前回の大阪万博で披露された技術はすべて実現しました。今回もきっと実現でき、しかもスピード感が高まると思います。この場にいる若い人たちが、将来の万博で、今日行われたリニアの議論について語っているかもしれません」と力強く話す。

 1970年の大阪万博の日本館では、模型が展示されていたリニアモーターカー。今回の大阪・関西万博の舞台で語られたリニアは、これからの日本社会に必要な価値を備えており、近い将来、現実のものになろうとしている。55年の時を経て、再び世界に発信されたリニア――夢だった技術が、未来の常識になる。

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