ある成年後見人の手記

2017年8月14日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 松尾由利子の夫、松尾行人は神戸の摩耶山天上寺に眠っている。由利子も逝ったらここに送ろう、と意を固めた。寺宛てに手紙を書き、後見人であるため出費はすべて記録が必要であり、異例で不躾(ぶしつけ)であろうが、お布施に対して領収書を発行してほしい旨を書いておいた。こうして4月13日、天上寺を訪ねた。

 青年僧、伊藤浄舟(じょうしゅう)副住職が対応、領収書の件はすんなり了承を得た。さらに、納骨回向(えこう)料が6万円で、永代供養を依頼した場合祠堂(しどう)料が20万円、80万円、個別相談とランク分けされているとの説明を受けた。由利子の夫は永代供養されていない。20万円は払えるが、由利子だけするのも釣り合いが悪いし、かといって2人分するのは由利子に限っての成年後見人としては越権行為だと考え、納骨回向だけにとどめることとした。

神戸・摩耶山の天上寺で由利子は夫の行人とともに眠っている
(撮影日・場所は不明)

 私が「こちらは真言宗ですね。伯母の宗旨は浄土真宗なんですが、亡くなった場合、大津での葬儀にいらっしゃって読経していただけますか」と尋ねると、伊藤は「ご葬儀は浄土真宗でして戒名もつけてもらってください。その後でお骨を持ってきていただければ、回向しますから」と、物分かりが良い。

神戸家裁の面々と違って、話していて気持ちが良かった。発想の柔軟さに魅せられた。一神教に比べ仏教は大らかやなあ、けど大日如来の真言宗と阿弥陀如来の浄土真宗は、日本仏教の中では一神教的な色彩を帯びた宗派と言われているはずやけど……などと思いを巡らしつつ、事が起きたらすぐ連絡すると言い置き天上寺を後にした。

 ハーネストを運営する「あかつき会」の武田直美理事に、神戸家裁の事務連絡を見せると「これが、日本の裁判所の言うことですか?」と絶句した。一呼吸置いて、「ハーネストが葬式をしましょう。無縁者の場合、そういう実績もあります。ハーネストが催して請求し、引き落とし口座から清算すれば問題ないでしょう」と、知恵を貸してくれた。
 力づけられたことに謝意を述べ、寺などとの段取りは私がつけ、納骨にも行くが、支払いはハーネストからということで寺にも了解を取っておく、と応じた。後に語る環境の好転により、この手法を選ぶ必要が消え、私が喪主を務める顛末となった。

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