2024年4月26日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年8月3日

レッドライン不在

 7月4日北朝鮮が第1回目のICBMを発射するまで、日本国内ではトランプ大統領のレッドライン(超えてはならない一線)に関して評論家やマスコミが熱い議論を交わしました。ところが、同大統領自身はレッドラインについて明言していませんでした。第1回目のICBM発射実験の成功後、同大統領はレッドラインを引かないと発言しています。

 仮にレッドラインが存在していれば、トランプ大統領は第1回目のICBM発射の時点で、即座に自ら緊急記者会見を開くないしホワイトハウスの執務室からテレビカメラを通じて米国民及び世界に向けてメッセージを発信する、といった行動に出たはずです。あるいは、オハイオ州、ウエストバージニア州及びニューヨークでの演説の中で、北朝鮮のICBM発射の問題について時間を割いたはずです。

 トランプ大統領は、上のいずれの行動も起こしていません。メディアは、第2回目のICBM発射後、トランプ大統領と安倍晋三首相が電話協議で具体的な行動を進めていくことで一致したと報道していますが、同大統領の動きは鈍いと言わざるを得ません。

 一般に、レッドライン及びデッドライン(期限)は、相手に圧力をかける効果を狙って設定されます。同時に、自分に対してはレッドラインにコミットするという意味が含まれています。

 ところが、トランプ大統領のレッドラインに対する考え方は異なります。同大統領はレッドラインを引くことは、相手に戦略や情報を与えていまい、自分の立場を弱くすると捉えているのです。同大統領にとってレッドライン並びにデットラインは効果的な交渉の道具ではないのです。結局、評論家やマスコミはレッドラインの思考の罠にはまり、振り回されていたのです。

本当のレッドライン

 北朝鮮の第1回目ICBM発射実験の後、トランプ大統領は米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応じました。その中で、同大統領はレッドラインに言及したのです。「仮にモラー特別検察官がトランプ大統領や家族の資産を捜査すれば、それはレッドラインか」という同紙の質問に対して、「そうだ」と回答しました。同大統領にとって、本当のレッドラインは北朝鮮のICBM発射ではなく、特別検察官による資産の捜査なのです。

  
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