海野素央の Love Trumps Hate

2017年8月9日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

ロシアゲート疑惑のリセットボタン

 トランプ大統領はロシアゲート疑惑に対してもリセットボタンを用意しています。米議会が休会中に、ジェフ・セッションズ司法長官のクビを切り、ロシアゲート疑惑の捜査に関与する新長官を起用するシナリオです。休会中に上院議会の承認なしに必要な人事を任命できる「休会任命」の大統領権限を使うのです。そのうえで、新長官に捜査を進めているロバート・モラー特別検察官を解任させるのです。このシナリオは、リセットというよりも世論から「権力乱用」ないし「司法妨害」と受け止められ、逆効果になることは明らかです。

 クイニピアック大学の同世論調査によりますと、「仮にトランプ大統領が司法省にロバート・モラー特別検察官を解任するように命じたら、権力乱用であると思うか」という質問に対して、全体の69%が「権力乱用である」と回答しています。その一方で、共和党支持者の47%は「権力乱用ではない」と答えているのです。仮にトランプ大統領がモラー氏を解任し、その結果世論の猛反発を買っても、熱狂的に支持をするトランプ信者を失うことはないのです。それ故に、「支持基盤ファースト」の同大統領がリセットボタンを押す可能性は否定できません。

トランプの「恩赦ボタン」

 もう1つのリセットボタンを紹介しましょう。もちろんトランプ大統領の弁護士チームは否定しているのですが、一部の米メディアは「トランプ恩赦説」を報道しています。

 トランプ大統領が自分自身、家族及び側近に恩赦を出してロシアゲート疑惑をリセットするという強硬手段です。恩赦の例をみてみましょう。1974年9月8日、米国社会に暗い影を落とすウォーターゲート事件に終止符を打ち社会を前進させるために、ジェラルド・フォード大統領はリチャード・ニクソン元大統領に恩赦を与えています。1992年12月24日、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、偽証罪で起訴されたレーガン政権のキャスパー・ワインバーガー元国防長官に恩赦を与えています。

 一般に恩赦は側近に与えられます。クシュナー大統領上級顧問は家族であり側近です。仮にクシュナー氏が罪を問われ、トランプ大統領が同氏に恩赦を与えた場合、世論の反発を招くのは確かです。

 というのは、クシュナー氏の好感度はかなり低いからです。クイニピアック大学の同世論調査では、同氏の好感度は14%です。共和党支持者の間でも35%程度です。同氏が恩赦の対象になった場合、世論から「これこそ真の縁故主義」「ファミリーファースト(家族第一主義)」だと強い批判が出ることは間違いありません。

 次に、長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏です。ロシア政府と関係があるとみられているロシア人女性弁護士と選挙期間中に面会したジュニア氏は、側近ではなく家族です。従って、恩赦の対象から外れる可能性があります。仮に対象にすれば、上と同じ批判の声が出るのは明らかです。

 モラー特別検察官の「解任ボタン」と同様、トランプ大統領が「恩赦ボタン」を押した場合も、世論の反発はかなり大きいことが予想されます。それでも同大統領は、ロシアゲート疑惑に対して強硬な出口戦略を練っています。窮余の一策としてどちらのリセットボタンを押しても、間違いなく米国の歴史に「負のレガシー(政治的遺産)」として刻まれるでしょう。

  
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