WEDGE REPORT

2017年9月22日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年大分県生まれ。早稲田大学卒業。フリーランスジャーナリストとして、大手総合誌、ビジネス誌で活躍。著書に『日本株式会社の顧問弁護士 村瀬二郎の「二つの祖国」(文春新書)、近著に『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)など。

 中国本土からやって来る中国人は観光客だけではない。「バース(出産)ツアー」と銘打った中国人妊婦がサイパンで出産するためにやってくるのだ。未だに米国の自治領であるサイパンで出産すれば、自動的に米国籍を取得できる。「昨年の出生数の4分の3が中国人」(地元議会関係者)という。

 中国の「第二列島線」を形成する島々は、日本とは第一次世界大戦後の委任統治を含めて歴史的に深い関係にある。ことのほか、サイパンは日本の命運を決した島ともいえる。

太平洋の戦略的要衝であるサイパン島。太平洋戦争末期には「B-29」が日本に向けて飛び立った

 日本本土への爆撃基地にすべくサイパンを米軍が陥落させたのは敗戦の前年、1944年7月7日。サイパンに米軍が進攻を始めた直後、軍令部に籍を置いていた海軍兵学校に学んだ高松宮宣仁(のぶひと)親王は天皇に謁見。サイパンを失うことの重要性を懇々と説いた。

 サイパン、それに隣接するテニアン島には米最大の爆撃機「B−29」が蝟集(いしゅう)。日本本土に焼夷弾の雨を降らせる。そして、テニアンから出発したそれは、広島と長崎に2発の原子爆弾を投下する。日本の敗戦を決定づけたのが、サイパン陥落であった。

日本の敗戦を決定づけた太平洋の戦略拠点の今

 敗戦からおよそ70年。サイパンの地政学的な重要性に変わりはない。たしかに、「第二列島線」上で米軍が基地を構えるのはグアムだけだ。それゆえ、米軍がいないサイパン、テニアン、そしてパラオに民間という名のもと中国に好き勝手な進出を許している。

 米国の無関心、日本の危機感のなさをしてこうした島々に〝五星紅旗〟の旗を掲げさせているのである。

 その意味で昨年10月30日からテニアンで行われた日米共同軍事訓練の意義は大きい。「キーン・ソード17」と名付けられた日米両軍3万6000人が参加した島嶼奪還を目的とした水陸両用作戦がおよそ2週間にわたって繰り広げられた。

 当時、米軍側の指揮をとったマルティネス在日米軍司令官も「これまでにないレベルでの日米協調体制が確立できた。在日米軍としても日米同盟と日本防衛への関与をさらに強くすることができた」と成果に満足していた。

 しかし、安心はできない。在日米軍司令官が満足した大規模作戦が行われた島、テニアンにも中国の足場はすでに強固に築かれているのだ。

 島の中央を走る「ブロードウェイ」と呼ばれる道を走ると南端の海に出る。そこでこんな看板を目にする。

 「オーシャンビュー&カジノ」

 そうなのである、ここもサイパンとは別の中国資本が巨大カジノとホテルを併設したリゾート施設を建設するために土地を確保している。

 日本は豊かになり、かつてのようにグアム、サイパンに代わり、タイ、ベトナム、シンガポールなど新たなアジアのリゾートに足を運ぶ。その反面、ますますこうした島々への関心は薄まるばかりだ。溢れんばかりのチャイナマネーの前に太平洋には次々と〝赤い星〟が誕生している。

写真・児玉 博

参考記事:WEDGE REPORT:赤く塗り替えられる太平洋の島・パラオ

  
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◆Wedge2017年9月号より

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