WEDGE REPORT

2017年9月22日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年大分県生まれ。早稲田大学卒業。フリーランスジャーナリストとして、大手総合誌、ビジネス誌で活躍。著書に『日本株式会社の顧問弁護士 村瀬二郎の「二つの祖国」(文春新書)、近著に『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)など。

母国を信用しないVIPと妊婦

 サイパンの中心部「ガラパン」。中国資本のカジノもこの一角にある。

 朝8時過ぎ。ホテルに次々と観光バスが横付けされる。中国本土、広州、福建を早暁に発ったチャーター便から吐き出された中国人観光客が到着したのである。街を歩けば、「塞班(サイパン)島投資」「塞班永住」といった看板を掲げた不動産会社が目に飛び込んで来る。中国語が飛び交い、レストランの中から聞こえてくるのもほとんどが中国語だ。サイパンはすでに中国本土の〝庭〟のようになっている。

街中では中国語が飛び交い、中国のリゾートアイランドと化している。「塞班島投資」や「塞班永住」といった看板を掲げた不動産が目に付く

 夕方、ガラパン中心部はヘルメットを被った中国人労働者たちで溢れかえる。彼らは街の一角に集まってカジノホテルの建設現場から作業員宿舎への送迎車を待つ。

 中国人労働者を運ぶ大型ライトバンは10分ほど走って、細い道に入り込み停車した。表通りからはまったく見ることはできない。そこには簡易に作られた横長のプレハブの建物が4つ並ぶ。建物と建物との間には、ビニール紐に吊るされた洗濯物がぶら下がる。

 不法労働の一斉摘発が3月にあったばかり。送迎車の後をついていった取材班の車を見つけるや、ガードマンであろう目つきの鋭い男が飛び出してきて、こちらに視線を投げかけてくる。中国人労働者たちも、胡乱(うろん)な目を向けてくる。とても45日滞在ビザをとった観光客には見えない。けれどもサイパン当局は中国当局に抗議もできない。20万人以上の中国人観光客は、サイパンにとっては、いわば〝人質〟だ。人質を取られている以上、手も足も出ない。そして、サイパンは侵食され続ける、〝赤い資本〟によって。

夕刻になると赤く彩られた煌びやかなカジノに、中国本土からの観光客たち100人程度が吸い込まれていった。サンダル履きや半ズボン姿の客が目立ち、タバコを片手にギャンブルに興じていた

 中国人労働者たちが、宿舎に帰っていく頃、カジノ「インペリアル・パシフィック」に赤い明かりが灯される。正面入り口に客たちが集まり始める。

 決してタキシード姿の男性や豪華なドレスを身に纏った女性たちが恭しく迎えられるようなカジノを思い浮かべてはいけない。サイパンのカジノに来る客は、サンダルを履き、半ズボン姿も目立つ。どこでも喫煙をする中国人らしく、会場内のあちこちで灰皿を持って右往左往するボーイの姿が目立つ。

 スロットマシーン、バカラ、ルーレット、ポーカーと広い会場にはおよそ100人程度の客しか見受けられない。これでは儲からない。ちゃんとカラクリがある。

 カジノは合法的なマネーロンダリング(資金洗浄)ができる場である以上、億単位のカネを持ち出す者たちを相手にしなければ経営的に成立しない。地元、サイパンの金融機関幹部の説明によれば、超富裕層向けには、プライベートジェットでの送迎が用意され、特別な贅を尽くした個室が用意されているという。

 海外への資金流出に神経を尖らせる中国政府。その一方で、資金がこうして持ち出されもする。国家を根本的に信用しない国民性ゆえのことだろうか。

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