チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年11月25日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 中国南部の都市・広州ではいま、アジア大会が盛り上がっている。これは2008年の北京オリンピック、今年の上海万博に続く国際的なイベントと位置づけられる大切な催しだけに、大会の成功は都市のプライドに関わる問題でもあったのだろう。大会に向けて100万人規模の警察官が動員され警備を徹底した効果で、尖閣問題が盛り上がる中でも反日デモが起きることはなかった。

アジア大会の街に存在する〝野生動物市場〟

 大会に先立っては、北京や上海の例に倣って広州の街をショーケースに変貌させることも忘れなかった。その神髄は、「外国人に見られたら不光彩な(恥ずかしい)ものごとを街から排除すること」だった。排除の対象は古くて不衛生な街並みや出稼ぎ労働者たち、または外国人が驚く習慣などといった中国に広く存在する問題が主なものだったが、なかでも北京や上海とは違って広州独特の問題とされたのが〝野生動物市場〟の排除だった。

 「中国ではここ数年、珍しい野生動物を食べることが一部の富裕層の間で大流行しているのです」

  と語るのは広州の地元紙の記者だ。

 「元々、中国南部では珍しい動物を口に入れたがるといった風土がありましたが、03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動で一気に下火になりました。これが時間をかけて復活したのと同時に、今度は庶民の嗜好という次元とはまた一つ違った、さらに大きな需要が生まれてきているのです。それがアワビやフカヒレ、ツバメの巣、神戸牛などといった贅沢品を食べ飽きた富裕層の新しい趣味であり、また商談などの席から役人への接待として供されるための野生動物への需要なのです。この接待で大切なのは、味ではなく“稀少性”です。だから当然のこと珍種や猛獣などが好まれ、それらは例外なく絶滅危惧種として扱われる動物です。このことがいま、中国と国際社会との間で新たな大きな摩擦の種となりつつあるのです」

生きるために動物を売買する貧困層

 野生動物食は中国語で「野味」と呼ばれる。同じ鴨でも家畜と野生では値段が大きく違ってくるほど、中国では圧倒的に野性が珍重される。背後には、経済発展を遂げた中国に生まれた成金が札束に物を言わせて世界中から野生動物をかき集めているといった事情があるのだ。

 もちろん中国政府がこれを容認している訳ではない。

 「政府は、むしろ厳しく取り締まろうとしているのです。しかし、動物保護のために金と人をかける。そんな発想を国民が広く理解しているのかといえば、それはまったく期待できない。なかでもある種の貧困層の人々にとっては、自分が生きていくのに必死なのに動物を獲ったり売買したりすることを躊躇う理由など見当たらないでしょうからね」(北京の国務院関係者)

 珍しい食材を追及してゆけば、世界の中での摩擦は避けられない。中国国内では国が定めた国家保護動物という法律の網をかいくぐることとなり、国際的にはワシントン条約を始めとした多くの条約やそれぞれの国が定めた動物保護の法律とぶつかることになるからだ。

 自然、野生動物の売買は地下に大きなマーケットを形成することになるのだが、そうなると余計に稀少性が増し、ますます需要が高まっていくという悪循環に陥っているのが中国の現状だ。

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