2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年11月25日

 では、実際にどんな動物が中国の富裕層や権力層に好まれ、犠牲になっているのだろうか。

 まず挙げられるのが、食用以外にも漢方薬としての需要が高い東北虎(シベリアタイガー)だろう。東北虎のほかには、チンチラやマンシュウアカジカ、麝香(じゃこう)鹿、熊といった動物がロシアから国境沿いに密輸されてきているという。

 ロシアと並んで取引の多い東南アジアからは、大蛇のボア、大トカゲ、センザンコウ、ワニ、そして孔雀などが大量に入ってきているという。

 中国国内では、センザンコウやチベットカモシカ、そして別名『空飛ぶパンダ』と呼ばれる希少種で国家二級保護動物として知られるシロハラヒメハヤブサといった動物までが狙われているという。

 食用ではなく漢方薬の原料や装飾品としては、アフリカからカバの牙やサイの角なども大量に密輸されている。

 国内で消費されるのではないが、あの人気者のジャイアントパンダ――東南アジアの華僑向けに毛皮を出しているとされている――でさえ密猟のターゲットにされているのだから凄まじい世界だ。

中国のモラルハザードが国境を超え世界へ

 トラやサイなどは本格的に絶滅が危惧される動物で、その保護には国際的な目が注がれている。それゆえに問題が深刻化してゆけば、「野味」を入り口として再び世界中で〝中国異質論〟が燃え上がってゆくことも十分に予測できるのだ。

 問題は中国の抱えるこうした国際社会との間の常識のズレが、財力を背景にどんどん外国に輸出され続けるのではないかと心配されていることだ。世界から貧困がなくならない限り、中国のモラルハザードは、いとも簡単に国境を越えて世界に広がってゆく。このモラルハザードは貧困との親和性が強くアンダーグランド化しやすいため規制することも簡単ではないのだ。

 経済力が世界からきれいごとを駆逐する。中国と向き合う上で避けて通れない挫折をまた一つ世界が味わうことになるのだろうか。 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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