坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年12月26日

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坂本幸雄 (さかもと・ゆきお)

サイノキングテクノロジーCEO、元エルピーダメモリ社長

日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツに入社し、93年副社長。神戸製鋼所、日本ファウンドリー社長を経て、02年エルピーダメモリ社長。現在サイノキングテクノロジーCEO。

 米大手半導体メーカーのブロードコムが同クアルコムに、半導体業界で過去最高額となる約14兆円での買収提案を行った。成長著しい半導体業界では高額な買収合戦が繰り広げられている。こうした海外のM&Aも成功事例ばかりではないが日本企業が学ぶべき点は多い。

(iStock.com/Neostock/peshkov/pedphoto36pm)

 まず一つ目は、M&Aの目的を明確にすることだ。中国企業による買収目的は米国と似て極めて明確で、業界ナンバー1、2になることだ。中国レノボが米IBMを買収してパソコン市場で1位になったのが良い例だ。数年前までは業界ナンバー1、2でなくともそれなりのシェアを維持できたが、IT化で市場のサイクルが短期化している現在ではすぐにシェアを奪われる。

 半導体開発は、特定の顧客(ティーチャーカスタマー、以下TC)にプロトタイプを提供して技術を蓄積し、競争力ある製品の量産に繋げるのが一般的だ。TCは、こういう商品を作ってみたらどうか、市場ではこういうニーズが出ている、など最新の情報を提供してくれる非常に貴重な存在だが、ナンバー1、2にいなければTCから相手にされず、他社との技術力の差はどんどん広がっていく。

 こうした点を踏まえると、よほど注目すべき技術を持っているなどの特異な状況でなければ、順位の低い企業を買収してシェアを少し拡大してもあまり意味がない。

 二つ目は、準備の周到さだ。米国の一流企業では、売却側、買収側を想定した人たちを外部から集め、さまざまな条件のもとでの模擬M&Aを繰り返し行っており、買収までにかける時間も日本企業より比較的長い。社の進退をかけた際の準備の周到さには目を見張るものがある。

 大手半導体メーカーのX社がソフトウェア会社のY社からある訴訟を起こされた際、X社は人種、性別、年齢、キャリア、大学での専攻内容など、実際の陪審員と同じバックグラウンドの疑似陪審員をそろえ、3カ月にわたりさまざまなQAを繰り返して本番に備えた。X社が敗訴というのが大方の予測だったが、それを覆して勝訴した。

 M&Aに関して、日本企業はこうした事前準備が甘い。かつて私が在籍したテキサス・インスツルメンツの経営陣は、「米国企業同士の交渉はとても時間がかかるが、日本企業は比較的容易に買収できる」と言っていた。

 そして三つ目は、企業の経営に投資家的視点を持ち合わせることだ。いかに収益を増やすかという視点に立てば、思い切った事業転換なども迅速に行うことが可能だが、「企業家」の色が濃い日本のコングロマリット企業のトップにはなかなか難しい。

 そこで、CFO(最高財務責任者)にコスト計算だけでなく、どう企業価値を高めるかという点に注力させた上で、CEOに意見を言える仕組みを整える必要がある。ほとんどの日本の大企業ではそれができていないのが現状だ。

 こうした点を抜かしてはM&Aの成功は遠いだろう。

  
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◆Wedge2018年1月号より

 

 

 

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