東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年12月28日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

亀山千広氏「テレビの人間は、数字に敏感。飽きられちゃいけないって、常に思ってる」

 一方「海猿」シリーズは何も変えてません。1作1作スケール感はでかくなってるけど、海保の特救隊が人を助ける話は同じでしょ。僕自身、準備稿を読んだ時に担当プロデューサーにむかって「前と同じじゃねえかよ」って、怒った覚えがあるくらいなんですよ。

 でも同じことをやり続け、予定調和のストーリーの中なのにお客さんに泣いていただき、感動もしていただいてる。それで前作より客足が伸びている。

 ところが「踊る」は、「飽きられてるんじゃないか」「和久さんがいないし」ってことで、旧湾岸署は閉じて新湾岸署にし、スケールも若干変える、主人公の役職も、そりゃ上がってるでしょってことで上げてみた、シチュエーションも変えて…って、変えすぎだったような気がするんです。

 テレビ局にいる人間の、そこは「さもしさ」っていうか。

 自分たちの中では、新しいことをしているという意味で納得だったんですよね。これもテレビ人の、もしかしたら病気。いつもいつも新しくないと僕らいけないから。

 だけどお客さんて、決して新しいものだけを求めてるわけじゃない。予定調和を再体験したいのかもしれないじゃないですか。

 マンネリは怖い、でも人はマンネリに浸りにくるって面も知らないといけない。映画館で時間を過ごそうという人たちの動機には、ノスタルジーっていうか、「あの感じ」という感覚で覚えてる何かをもう一度見つけに行きたいというのもあるだろうし、それって立派な動機なんだと思うんですよね。

 だから「寅さん」もあれだけ続いたんだろうし。ちょっとテレビの人間のいけないところ、垣間見せられたような気がしましたね。

浜野 「男はつらいよ」は全48作、特別編1作っていうそれはそれ、映画史に類例のない長寿シリーズだったけど、黒澤明監督も、「大変なことだね、それだけつなげているというだけでも」と賞賛されています。「男はつらいよ」の興行収入って、だいたい15から20億円前後ですが、確実な20億円というのは大ヒット作です。もしかして亀山さん、目標が高すぎない?

浜野保樹教授「日本映画には新しい“マンネリ”が必要」

亀山 いや、173億というのがあるとどーしても。

 だから最長不倒距離だって言われて嬉しいわけない。またあの記録超えられないに違いないって、そっちを思っちゃうんですよ。

浜野 「寅さん」とはまた違う娯楽作品のシリーズが日本映画には必要だと思います。あえていうと「007」シリーズのような、ね。

 「踊る」はそうなり得るし、なりつつあるところが偉い。少ないって言ったって73といったら邦画にしちゃ物凄い数字なんだし、最近の「007」シリーズの国内興行よりも上でしょう。

 確かにマンネリと言えばマンネリ。でもコンテクストを誰でもが知っているという偉大なマンネリが、このごろ映画にありませんから。

フジはクリエイターに賭ける

亀山 だからシリーズに、っておっしゃるんですよね。

 わかります。でも、自分の中では第1作より、本格的に関わった第2作の実感が強いかな。

 2003年に映画事業局というひとつの局をつくって任されて、さっそく公開で173億円いったのが「THE MOVIE2」だったので。でも一方で、その少し前、2001年公開の「ウォーターボーイズ」を若い監督の矢口さん(矢口史靖)にやってもらったり、才能に投資する面白さにも気づきつつあったんですね。

 そう思って見回したら、フジテレビの中にも映画を撮れそうな人材がいっぱいいたし。

浜野 映画事業局っていうと、いかにも社内の一部局みたいだけど、むしろ…

亀山 スタジオをひとつつくる、でしょ。スタジオって、つまり映画製作会社です。

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