2024年4月26日(金)

個人美術館ものがたり

2011年1月12日

 そんな感覚の反映だろう。会場には手遊びで作られた作品以前のオブジェ群もたくさん展示され、好きで集めた各地の珍しい日用品や玩具類も並ぶ。

猪熊のコレクションと手遊びで作ったオブジェ「対話彫刻」(左)。
こうした小さなものも含めて、所蔵品は2万点にのぼる

 振り返ればニューヨーク以前の猪熊は、抽象絵画は描かないものの、表現の上ではそこに近づいていて、デザインの仕事などでは抽象作品を試みている。それがニューヨーク以後は一気に、堂々と絵の中にあらわれてきた、ということかもしれない。

 晩年は健康を害したこともあって、日本で暮すことになる。子供はなく、愛妻と二人暮しだったが、その妻にも先立たれる。そうやって晩年というものが深まってくるころ、世の中はバブル経済がふくらみ、建物造りの気運が高まる。その流れから丸亀市に美術館をという話も出てきて、猪熊は作品をすべてその美術館に寄贈することに決めた。

 猪熊は交通の便のいい所を望み、折からの駅前開発の気運にもちょうど重なる。まことに幸運な人とも思うが、出合ったチャンスへの素直さが、その運となってあらわれたことなのだろう。

  (写真:川上尚見)

【丸亀市猪熊弦一郎現代美術館】
〈住〉 香川県丸亀市浜町80-1 〈電〉0877(24)7755
http://mimoca.org/index.php

丸亀市の市制施行90周年の記念事業として1991年に開館。猪熊弦一郎氏は「いい美術館」をつくるのならと応じ、「美術館は心の病院」というコンセプトのもと、来館者が気軽に立ち寄れる場所にしたいと、さまざまなアイデアを出した。交通の便のいい駅前というロケーションや、子供時代から美術にふれてほしいからと高校生まで入館無料であることは、氏の提案によるもの。また現代美術を紹介する機会を少しでも増やそうと、氏以外の芸術家の展覧会である特別展示に積極的だったという。

〈開〉 10時~18時 *入館は17時30分まで
〈休〉 12月25日~31日、展示替え期間
〈料〉 一般950円 大学生650円 高校生以下無料

◆ 「ひととき」2011年1月号より

 

 

 

  

 
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