2024年4月26日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2018年3月29日

最愛の家族を亡くした悲劇の副大統領

 先ほど悲劇の副大統領と書いた通り、本書では副大統領に在職中に、自身の長男であるボー・バイデンが脳腫瘍をわずらい46歳の若さでなくなった体験を中心に語っている。そもそも、バイデン前副大統領は1期目の上院議員だった31歳当時、奥さんと生後18カ月の娘を自動車事故で亡くしている。その時、同じ車に乗っていたものの助かった息子2人のうちのひとりが、脳腫瘍で他界したボーでもある。そのボーが亡くなった時期はバイデンの副大統領の任期後半だったうえ、バイデンが2016年の大統領選挙に挑戦するかどうかを決める重要な時期でもあった。本書のタイトルPromise Me, Dadとは、病床で死が近いのを悟った息子ボーがバイデンに対し、自分が死んでも大統領選に立候補するよう約束してくれと励ました言葉からきている。

 すでにご存じのように、バイデンは結局、大統領選への立候補を見送り、ヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補となった。本書では、バイデンが息子の死に直面しながらも大統領選に打って出る選択肢を最後の最後まで真剣に検討し断念した舞台裏も明かす。バイデンを最大のライバルとみていたヒラリー陣営による、マスコミをつかったバイデンに対する妨害工作には怒りを隠さない。自身の息子の闘病と死という苦難を抱えながらも、副大統領として外交に情熱を燃やし、仕事に没頭して悲しみを乗り越えようとした日々を語る。

 その誠実で飾らない人柄が共感を呼ぶのだろう。もしかすると、バイデンが民主党の大統領候補に選ばれていれば、ドナルド・トランプを破り大統領になっていた可能性もある。今や最高権力者となったトランプ大統領の暴走が目立つだけに、バイデンの魅力が逆に増して本書の読者を増やしたのかもしれない。

 最愛の家族を失う悲しみを若いころに経験したバイデンが、息子の死に直面し語った次の言葉は切実だ。

 “I know what’s best because, unfortunately, I’ve lived through this before. The only way I survived, the only way I got through it, was by staying busy and keeping my mind, when it can be, focused on my job.”

 「どうすれば一番いいかわかっている。残念ながら、以前にも同じ経験をしているから。わたしが生き続けられた唯一の方法、不幸を乗り越えた唯一の方法は、忙しくすることであり、できるだけ仕事に神経を集中することだった」


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