■今回の一冊■
Promise Me, Dad: A Year of Hope, Hardship, and Purpose
筆者 Joe Biden
出版 Flatiron
アメリカの副大統領ほど残念な役職はないだろう。世界最大の国アメリカのナンバー2でありながら、日ごろ脚光を浴びることはない。そもそも話題にさえならない。ペンス副大統領が2月に日本に来た時にはニュースにはなったけれども、トランプ大統領が来た時ほどの騒ぎにはならなかった。アメリカの憲法では、国政を運営するすべての権限は大統領に属しているから、すべての注目が大統領に集まるのは当然だ。
オバマ政権下で副大統領を務めたバイデンの回顧録
オバマ政権で副大統領を務めた当時を回想する本書でも、バイデン前副大統領は最初は副大統領になるのは気乗りしなかったと、はっきり本音を書いている。上院議員であれ下院議員あるいは州知事であれ、他人から命令されたり指図されたりすることがない政治家にとって、政権のナンバー2という立場そのものが意に沿わないらしい。しかも、政権のなかでも副大統領は特に影が薄い。そもそも副大統領には次の2点を除き、ほとんど権限というものがない。
He or she is charged with breaking a tie vote in the Senate—which I had not been called to do in nearly six years—and waiting around to take over if the president is somehow disabled.
「彼または彼女には、上院で賛成票と反対票が同数の場合に否決か可決かを決める1票を投じる役割がある。わたしの場合、その役目は6年近くの間、巡ってこなかった。そして、大統領がなんらかの原因で職務を遂行できなくなった場合に、大統領の地位を引き継ぐために待機している役目がある」
そんな影の薄い役職をオバマ政権下で務めたバイデンの回想録がベストセラーになったのは、ひとことで言えばバイデンが悲劇の副大統領だからだ。本書はなんと、昨年12月3日付のニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)に1位で初登場した。11回目のベストセラーリスト入りとなった2018年3月4日付ランキングでも5位に入るなど売れ行きは好調だ。前回の本コラムで紹介したトランプ政権の内幕を暴露する『FIRE AND FURY』がベストセラー1位で快進撃を続ける一方で、バイデン前副大統領の回想録が地味に売れ続けたのは興味深い。