2024年12月22日(日)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年7月27日

■今回の一冊■
SHATTERED
筆者 Jonathan Allen、Amie Parnes
出版社 Crown

『SHATTERED』(Jonathan Allen,Amie Parnes、Crown)

 ヒラリー・クリントンはなぜ、アメリカ大統領選でドナルド・トランプに負けたのか。サブタイトルに Inside Hillary Clinton's Doomed Campaign とあるように、ヒラリー・クリントンの選挙対策本部の内幕を細かく伝え、その敗北の原因に迫る。ふたりの筆者はおそらく、初の女性大統領が誕生する瞬間へ向けて、綿密な取材を重ねてきたのだろう。民主党での大統領候補への指名獲得競争、そしてドナルド・トランプと争った本戦と、長い選挙戦の間にクリントン陣営が次々と直面した難局を、関係者の生の声を交えながら生き生きと描き出す。

 とはいえ、トランプがホワイトハウスに入ってしまった以上、敗軍の将であるヒラリー・クリントンに関する本を、今さらだれが読むのだろうか。日本人である評者ははじめ正直そう思った。しかし、アメリカでは本書はベストセラーとなった。ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)では、5月7日付で2位に初登場した。8週連続でのランクインとなった6月25日付でも13位につけた。

 大統領に就任してからも暴走気味のトランプ大統領を目の当たりにし、どうしてこんなことになってしまったのか。そう思ったアメリカ国民が改めて本書を手にとっているのだろうか。基本的には民主党支持、つまりはヒラリー・クリントン支持とみられる筆者たちによる本書を、トランプ支持者や共和党員たちが読むとも思えない。本書が売れるということはやはり、民主党支持者の間ではヒラリー・クリントンへの人気が根強いということなのだろうか。とはいえ、選挙に負けてしまった後に、ヒラリー・クリントンについて考えたところで手遅れだ。それでも本書が売れるあたりに、なんとかトランプを止められなかったのかという、アメリカ国民の間に漂う後悔の念を示しているのだろう。

タイトル”shattered“の意味

 筆者たちは選挙戦のさなかからヒラリー陣営などの100人以上にインタビューを重ねてきた。臨場感あふれるシーンの数々が登場する。なかでも、次のシーンは最も胸に迫った。ヒラリー・クリントンが選挙での敗北を認める電話をドナルド・トランプにかけた直後、オバマ大統領からヒラリーに電話がかかってくる。ヒラリーの長年の側近であるHuma Abedin(フーマ・アベデイン)がオバマからの電話を、ヒラリーへ取り次いだシーンだ。ヒラリーはその少し前にもオバマ大統領から電話をもらい、選挙での敗北を潔く認めるよう説得されたばかりだった。


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