“It’s the president,” Huma said. Hillary winced. She wasn’t ready for this conversation. When she’d spoken with Obama just a little bit earlier, the outcome of the election wasn’t final yet. Now, though, with the president placing a consolation call, the reality and dimensions of her defeat hit her all at once. She had let him down. She had let herself down. She had let her party down. And she had let her country down. Obama’s legacy and her dreams of the presidency lay shattered at Donald Trump’s feet. This was on her. Reluctantly, she rose from her seat and took the phone from Huma’s hand. “Mr. President,” she said softly. “I’m sorry.”
「『大統領からです』とフーマは言った。ヒラリーは一瞬、ひるんだ。話をする心の準備ができていなかった。ほんの少し前にオバマと話したときはまだ、選挙戦の結果は確定していなかった。しかし、今や、大統領が慰めの電話をかけてくるにいたって、自分が敗北したという現実と、ことの重大さが突如、ヒラリーを打ちのめした。自分は大統領を失望させてしまった。自分自身もダメにしてしまった。党にも敗北をもたらした。そして、自分の国を奈落に突き落としてしまったのだ。オバマが築き上げた功績と、大統領になるという自分の夢は、ドナルド・トランプの足元で砕け散った。自分のせいだった。ヒラリーは重い腰をイスから上げフーマの手から電話を受け取った。『大統領、すいませんでした』と、ヒラリーは静かに言った」
ちなみに、引用した原文のなかに、shatteredという単語が出てくる。本書のタイトルにもなっている言葉なので、ここで少し解説する。「打ち砕く」という意味を持つ動詞shatterの受動態なので「打ち砕かれた」という意味になる。Shatterという動詞には、ガラスなどを「粉々に割る」という意味もある。これまで女性が大統領に就任したことがないという、いわゆるガラスの天井(glass ceiling)を打ち破る(shatter)つもりで、ヒラリーは大統領選に挑んだはずが、逆にトランプによって打ちのめされた(shattered)という、皮肉にも近い意味がタイトルには込められている。
自分が政界のインサイダーではないと
示せなかったヒラリー
閑話休題。いきなり結論から明かすと結局、ヒラリー・クリントン自身の不手際が敗因だったと、本書は言い切る。
In the end, though, this was a winnable race for Hillary. Her own missteps—from setting up a controversial private e-mail server and giving speeches to Goldman Sachs to failing to convince voters that she was with them and turning her eyes away from working-class whites—gave Donald Trump the opportunity he needed to win.
「しかし、結局のところ、ヒラリーに勝ち目のある選挙戦だった。ヒラリー自身のいくつもの過ちのおかげで、ドナルド・トランプはチャンスを手に入れた。ヒラリーがおかした過ちとは、議論の的となった公務の電子メールで私用サーバーを使ったことや、ゴールドマン・サックスで講演したおかげで選挙民たちの反感を買い、白人労働者階級へ目配りしなかったことだ」
富を独占しているとしてウォール街を目の敵にする市民運動が広がっていたのに、ウォール街を象徴する投資銀行のひとつであるゴールドマン・サックスから招待され高額の謝礼をもらって講演したことや、公務のメールを安全性の低い個人アカウントで読むなどした落ち度を敗因としてあげている。しかも、ヒラリー・クリントンは選挙戦の序盤では、みずからの落ち度を認めず謝罪も遅れ、国民のヒラリーに対する不信感が一段と深まってしまった。
筆者たちは次のように総括する。
She was unable to prove to many voters that she was running for the presidency because she had a vision for the country rather than visions of power. And she couldn’t cast herself as anything but a lifelong insider when so much of the country had lost faith in its institutions and yearned for a fresh approach to governance.
「ヒラリー・クリントンは多くの有権者に対し、自分が何のために大統領選に立候補するのかを示せなかった。権力を手に入れるためではなく、国がどうあるべきかというビジョンを持っているから大統領を目指すのだということを証明できなかった。また、国民の大多数が政治機構に対する信頼を失い、政治のあり方について新しい取り組みを求めているのに、ヒラリーは自分が政界の長年のインサイダーなんかではないと示せなかった」