物別れに終わったプーチンとの会談
本稿の冒頭で副大統領には、ほとんど権限がないと書いた。しかし、仕事がないわけではない。バイデン副大統領は外交に力を入れ精力的に中南米や東欧、ロシアなどを歴訪した。2011年にアメリカ副大統領としてモスクワを歴訪したときのエピソードは、外交の舞台裏を覗けて面白い。そもそも、外遊に同行したいとせがむ孫娘を連れていったというから驚く。さすがに、ロシアのプーチン首相(当時)と面会した時には、孫娘は同席させなかったと記している。バイデンが明かすロシアの権力者とのやり取りは、プーチンの薄気味悪い裏の顔を浮かび上がらせる。プーチンとの会話を紹介している部分を2カ所、以下に引用する。
ロシア軍が2008年にジョージア(グルジア)へ侵攻して以降、ロシアとジョージアは緊張関係にあり、アメリカは当時、ジョージアのサアカシビリ大統領を支持していた。モスクワでプーチンに面会したバイデンは、ロシアにジョージア問題でことを荒立てないよう、次のように話した。
“I speak to Saakashvili regularly on the phone and I urge him not to take provocative actions, just as I urge you to restore Georgia’s sovereignty,” I said. “Oh,” Putin replied, “we know exactly what you say to Mr. Saakashvili on the phone.”
「『サアカシビリとは定期的に電話で話しており、挑発的な行動に出ないよう説得している。ジョージアの国家主権を尊重するよう、わたしがあなたに求めているのとちょうど同じように』と、わたしは言った。それに対しプーチンは『ああ、あなたが電話でサアカシビリに言っていることは一字一句知っていますよ』と答えた」
プーチンとは結局、意見が合わず、会談は物別れに終わった。バイデンは最後にプーチンに面と向かって言い放った。
“Mr. Prime Minister, I’m looking into your eyes,” I told him, smiling. “I don’t think you have a soul.” He looked at me for a second and smiled back. “We understand each other,” he said. And we did.
「わたしは微笑みながら言った。『プーチン首相、わたしは今あなたの瞳を覗き込んでいますが、あなたには情というものがないと思う』と。するとプーチンはわたしを一瞬、見つめて微笑み返し『わたしたちは、お互いのことを分かっていますね』と言った。実際、プーチンの言う通りだった」
父ブッシュ来日時の珍事を教訓に
残念ながら、本書には日本に関する記述がほとんどない。あえてあげれば、父ブッシュ大統領が1992年に来日した際の珍事がやはり、アメリカ国民の間でも記憶に新しいのだなと思わせる会話ぐらいだろうか。父ブッシュ大統領は晩餐会で急に体調を崩し、隣の席の宮沢首相の膝に嘔吐して椅子から崩れ落ちた。その様子をテレビカメラがとらえ世界中にニュースが広まった。体調が思わしくないのに無理して外遊しようとするバイデンに対し医者が忠告するコメントを次に引用して本稿を締めたい。
“Sir, I understand pulling down an international trip is a big deal,” Doc said. “I get it. It’s not good press. It’s embarrassing. But you know what else is embarrassing and not good press? Collapsing on camera. You remember the state dinner in Japan when George Bush threw up on the table, right? If that’s the YouTube video you want, go ahead.”
「『外遊の予定をキャンセルするのは大変なことだと分かっています』と医者は言う。『わかります。マスコミはいろいろ言う。困りものです。しかし、それ以上に困りもので悪い印象を与える事態を知っていますよね? テレビカメラの前で倒れることです。日本で晩餐会のときに父ブッシュ大統領が席で吐いたのを覚えてますよね? ユーチューブで動画を流されるのをご希望なら、外遊に出てもいいですよ』」
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