■今回の一冊■
What Happened
筆者 Hillary Rodham Clinton
出版社 Simon & Schuster
ヒラリー・クリントンが2016年のアメリカ大統領選を振り返った回想録だ。ヒラリーは民主党の大統領候補として選挙戦をたたかい、共和党候補だったドナルド・トランプにまさかの敗北を喫した。実際、ヒラリー本人も選挙戦の最後の最後まで自分が勝つと信じていたという。
敗軍の将が今さら何を書くのか。そう反発する人も多いだろう。しかし、本書は発売と同時に大きな話題となり、ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)に10月1日付で初登場してトップの座を獲得した。その翌週もトップとなって売れ続け、9週連続でランクインした11月26日付ランキングでも12位だった。
蒸し返された私用メール問題
読む前から予想はしていたものの、驚くべき新事実が書かれているわけではない。のぞき見趣味的な好奇心を満足する本ではない。残念ながら、トランプ大統領に関する悪口もあまり出てこない。トランプ大統領に関する痛烈なコメントは次の例が目立つくらいだ。
Donald Trump spending about 20 percent of his new presidency at his own luxury golf clubs. I sometimes wonder: If you add together his time spent on golf, Twitter, and cable news, what’s left?
「ドナルド・トランプは大統領になって以来、自前の贅沢なゴルフクラブで時間のざっと20%をつかっている。わたしは時々疑問に思う。ゴルフとツイッター、ケーブルテレビのニュースに出ている時間を除くと、ほかのことをやる時間はあるのだろうか?」
いたって真面目かつ冷静に、データを交えながら大統領選で負けた理由を分析している。意外に言い訳がましくなく説得ある語り口だ。トランプ大統領の暴走ぶりを日々みている今だからこそ、なるほどと思わされる。大統領選で負けた最大の理由はやはり、投票日が間近に迫るなかで、当時のコーミーFBI長官がヒラリーの電子メール問題を蒸し返したことだと、本書は強く主張する。