中国メディアの裏側(全3回)

2011年2月28日

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福島香織 (ふくしま・かおり)

ジャーナリスト。
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、 2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)など。日経ビジネスオンラインで「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス~」連載中。

 このマスコミ全体の腐敗に抵抗して記者倫理を貫こうと正攻法で闘おうとする記者ももちろん存在する。しかし、じつはそれはかなり命がけの仕事でもある。

 2010年7月3日に発生した福建省の紫金山銅山(紫金鉱業集団)の有毒廃液漏れ汚染事件は事件発生から8日たって漸く公式発表され、中央紙も報じた。日本でも重大な環境破壊事件として報道された。実はこの事件は当初、「封口費事件」によって隠蔽されかかった疑いがある。しかし中国青年報と第一財経日報の記者が、「著名経済誌の記者らが紫金鉱業側から封口費を受け取った」と告発した。中国の銅の生産量の3分の1を産出する大企業の紫金鉱業を告発するのだから相当な勇気だ。紫金鉱業側はこれを全面否定し、今も主張が対立している。この2人の記者は告発後、それぞれが家族が交通事故にまきこまれるなど、身の危険を感じる嫌がらせや脅しを受けた。

 さすがに、共産党エリートの育成機関・共産主義青年団機関紙の中国青年報という中央の大新聞記者なので、殺されるまではいかないだろうが、こういった告発記事は戦う相手が巨大であれば、記者の方が「捏造記事」を書いたとして返り討ちにされかねないのだ。

 地方記者が報道の正義を貫こうとして殺されてしまうケースも本当にあった。

 2010年12月初旬、新疆ウイグル自治区トクスン県の建材工場で4年に渡り知的障害者を奴隷的な強制労働に従事させていた事件を取材し、関係者の逮捕に寄与した敏腕記者、北疆晨報の孫虹傑記者は12月18日に暴漢に襲われ、その3日後に脳挫傷で死亡した。クイトン市公安当局は容疑者6人を逮捕し、酒の上のケンカが原因として処理した。しかし、孫記者の友人たちは、孫記者が10月に地元の新疆ウイグル自治区クイトン市当局の不正強制立ち退き事件を報じて以来、身の危険を感じていたと漏らしていたと訴え、地元権力の不正を暴いたことに対する報復の可能性があるとしている。死人に口なしで、真相は闇の中なのだが、中国における記者稼業はかくも危険を伴うのだ。

命がけの記者にしか
中国を変えることができない

 封口費を受け取って堕落した記者になるか、記者の正義を貫こうとして口封じに殺されてしまうか。殺されなくとも刃向う権力が大きければ捏造記者のレッテルをはられる、あるいは身に覚えのない経済事件で逮捕されることも本当にありうるのだから、実に厳しい環境だ。

 ある友人の記者は、もともと中央紙エリート記者だったが、結局書けない官僚記者より新聞民工を選んで、売上至上主義の雑誌記者となった。彼は私にこう言った。「少なくとも主要中央紙の記者になろうと思えば、北京大学、清華大学、復旦大学といった名門の大学を出て、国家新聞出版総署が発行する記者証の取得試験もパスしなければならない。そういう頭のいい人間なら、早々に記者をやめて、記者時代に築いた人脈を利用してビジネスをやった方がよっぽど安全で、正しい生き方ができるよ」。

 もし中国のメディアで、権力の不正を暴いているような鋭い記事を見かけたら、その背後には記者の倫理や命をかけた攻防があった、あるいは続いていると想像してほしい。

(第3回へつづく)

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第1回はこちら
中国メディアの裏側(1) 官僚記者と新聞民工

福島香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト。大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、 2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)。近刊に『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑 社新書)。日経ビジネスオンラインで「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス~」連載中。

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