2018年5月28日(月)

J-POWER(電源開発)

2018年5月18日

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 複雑化・不確実化する国際情勢があたかもゼロ・サムゲームの様相を呈するなか、資源小国である日本が採るべきエネルギー安全保障の要諦とは。石炭火力発電の最前線で、気鋭のエコノミスト・吉崎達彦氏が思いを巡らせた。

山本博之所長の案内でJ-POWER磯子火力発電所を視察する吉崎達彦氏(左)
 

地政学から見る予測不能な国際情勢とエネルギー政策 

 「地政学リスクの時代」といわれている。地政学とは、人間の力では変えられない地理というものを前提に、国家の立場から政治や安全保障、経済的な戦略について考える学問である。20世紀初め、スウェーデンの政治学者ルドルフ・チェーレンによって提唱された。

 その古い言葉が国際政治の舞台で復権したのは、米国同時多発テロ事件から1年後の2002年9月、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長が不透明な金融情勢を踏まえて「地政学リスク」と発言したことがきっかけとされている。国際情勢と経済について研究する吉崎達彦氏(双日総合研究所副所長・チーフエコノミスト)はこう説明する。

吉崎達彦(よしざき・たつひこ) 双日総合研究所 副所長・チーフエコノミスト 1960年富山県生まれ。84年一橋大学社会学部卒業、日商岩井(現・双日)入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書・調査役、日商岩井総合研究所調査グループ主任エコノミストなどを経て、2004年より現職。ブログ「溜池通信」は連載600回を超える人気サイト。著書に『アメリカの論理』『気づいたら先頭に立っていた日本経済』(ともに新潮新書)などがある。

 「ロシアによるクリミア侵攻、イスラム国の台頭、中国の南シナ海への侵出、そして北朝鮮のミサイル問題と、2014年頃から予測不能な事態が次々と現れて、世界秩序がいったいどうなるのかわからなくなりました。少し前まではグローバリズムの基本は"ウィン・ウィン"の共存関係にあると思われていたはずなのに、気がつけば、勝つか負けるかの"ゼロ・サム"の対立関係に戻ってしまった。こうした状況下で、地政学への関心が一挙に高まったのだと思います」

 地政学リスクは経済にも影響を及ぼす。1バレル100ドルを超えていた原油価格は2014年を境に暴落し、1年半後には40ドルを下回った。その背景には中東・欧州をめぐって混迷する国際情勢に加え、シェール革命による米国産石油の輸出緩和と過剰供給という事情もある。

 「鉄鋼・アルミに見られるように、トランプ大統領の保護主義政策は、本質的にウィン・ウィンであるべき貿易でさえも、地政学的な対立構造に陥れてしまいました。ただし、ことエネルギー政策に関しては、もともとそれ自体が地政学であると言ってもいいほど、地理的な環境や条件と切り離せないものなのです」(吉崎氏)

資源の最貧国日本が採るべきエネルギーの安全保障

 エネルギーはなぜ、地政学と密接に関わるのか。吉崎氏が挙げるのは、資源の多くが世界の特定地域に偏在する傾向にあり、埋蔵量にも限りがあるため、その獲得をめぐって国家間の利害が対立すること、またその地域の政情などによって、資源の価格や供給量が大きく左右されることである。

 例えば、石油や天然ガスは中東に多く分布するため、この地域の政治的な緊張が高まると、供給不足への懸念から価格が高騰し、それが金融市場へも跳ね返る。また、米国のシェールガス・オイルの増産は価格の下落材料となるが、一方で産油国間の減産合意は押し上げ材料となる。政治・経済の状況や各国の思惑が複雑に絡み合い、さらに投機マネーの動きが加わることで、エネルギーの安定供給に計り知れない影響を与えるのだ。

 「特に日本の場合は深刻です。この狭い国土で1億人以上が暮らしているのに、資源はきわめて乏しく、エネルギー自給率は8%に過ぎない。こうした国がエネルギーの安定供給を維持するには、常に地政学的な視点からリスク分散を考える必要があります」

 かつて戦後復興期の日本経済は、石炭や鉄鋼の生産に傾斜的に投資することで苦境を乗り切った。その後、石炭から石油へと大きくシフトしたが、1970年代に経験した二度のオイルショックで、単独の資源に頼ることがいかに危険であるかを思い知った。

 「不測の事態に備え、資源の選択肢は幅広く持つこと。そして時間軸を大きく取り、長い目でエネルギーを捉えることが重要です。なぜなら、石油と石炭の関係からもわかるように、エネルギーの歴史は過去の常識が覆されることでつくられてきたからです」

 ならば、低炭素社会へと向かうとき、再生可能エネルギーだけに傾斜するわけにはいかない。「S+3E」の原則、すなわち、安全性(Safety)の確保を大前提に、エネルギー安定供給(Energy Security)、経済性(Economy)、環境性(Environmental Conservation)を同時に満たすことができるよう、多様な尺度を持つべきだと吉崎氏は話す。日本が現在、再生可能エネルギーと原子力、石炭、天然ガスの比率をほぼ等分する電源構成を目指しているのもそのためだ。石炭にしても、決して過去の遺物ではない。