世界の記述

2018年7月26日

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工藤律子 (くどう・りつこ)

ジャーナリスト

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学大学院地域研究科修士課程修了。『マラス―暴力に支配される少年たち』(集英社)で第14回開高健ノンフィクション賞受賞。他、『マフィア国家―メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)など著書多数。

 スペインは、平均寿命が82歳を超える長寿国。老いても子どもには頼りたくないが、料金が高いうえにお決まりのサービスしか提供しない施設にも入りたくない。そう悩む人も多い。そんななか、日本円にして15万円ほどの年金で楽しく尊厳ある老後をすごす方法を、自ら創り出した人たちがいる。

 「ここにいると、人とのつながりの大切さを改めて感じますし、人間として成長できます」

 そう話すハイメさん(81)は、首都マドリードの北へ車で1時間ほどのトレモチャ・デル・ハラマ(人口約1000人)に2013年に完成した高齢者集合住宅、Trabensolで生活する。54室ある住居には、64〜87歳の男女80人が、単身あるいは夫婦やきょうだい、友人同士で住んでいる。

庭には木々が植えられ、住宅は南側にテラスを持ち、住人が好きにアレンジしている。(写真・YUJI SHINODA)

 マドリード近郊で子育てをしていたハイメさんら同世代の友人たちは、60歳を迎える頃、老後について話すようになった。そして、皆で住宅協同組合をつくり、一世帯あたり約1900万円を出資して、独自の高齢者住宅を建てることを計画する。その成果がTrabensolだ。

 建物は中庭を中心に造られ、裏に菜園もある。住居は50㎡の1LKで、南側にテラスを持ち、室内に自然光が差し込むよう工夫されている。建物内はバリアフリーで、要介護者用のデイサービス室や看護医療室も用意されている。

 ランチタイムには、住人の大半が大食堂に集う。午後には中庭で、ワインやビールを片手におしゃべりが続く。一日中、住人の誰かが趣味や知識を生かして、太極拳、絵画、朗読劇、ガーデニング、映画上映など、様々な活動を企画し、隣人と楽しんでいる。すべての運営は組合員である住人自身の手で行われ、その中心となる運営委員会メンバー9名は、4年ごとに選挙で選ぶ。

 全世帯の掃除や洗濯、ランチの調理は、有給スタッフが担う。毎月の生活費は、昼食、掃除、洗濯、電気、ガス、水道、インターネット代込みで、二人世帯なら約16万円。単身者なら約13万円だ。

 退所や死亡時には、出資金の返金か、家族への居住権移譲かを選ぶ。家族が入居しない場合は、ウェイティングリストにいる人(18年5月現在26名)が組合に加入し、入居する。「家は組合のものなので、投機の対象にはしないのです」とハイメさん。

 そこでは、現役時代に教員や看護師、役人、職人など、様々な分野で活躍した人々が、新たな学びを求め、仲間と助け合いながら人生を謳歌している。

  
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