八月の風物詩

2011年8月6日

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 手を合わして仰ぎ見る赤い炎で描かれた「大」の文字。まるで夜空の中に浮かび上がるようにして灯るその大文字に、そばに立つ人も数珠を手に合掌している。

 京都、8月16日の夜は、五山の送り火。盂蘭盆の迎え鐘を撞き、家に迎えた先祖の霊魂が、再び冥界へと迷わず戻っていけるように、お山に火を灯して送るのだ。

夏の夜空にゆらめく大文字。京都五山の送り火の意味は意外に知られていない (写真:中田 昭)

 如意ヶ嶽の支峰大文字山の「大文字」、松ヶ崎西山・東山の「妙・法」、西賀茂にある妙見山(通称船山)の船を象った「船形」、金閣寺の北方に聳(そび)える大北山の「左大文字」、最後に、嵯峨鳥居本(さがとりいもと)の曼荼羅山(まんだらやま)に、鳥居の形をした「鳥居形」が灯される。

 江戸時代後期には、市原野(いちはらの)に「い」、鳴滝に「一」、西山に「竹の先に鈴」、北嵯峨に「蛇」、観空寺(かんくうじ)村に「長刀」などがあったという。

 送り火の起原については、よくわかっていない。五山それぞれの歴史や謂われに諸説がある。だからこそ、幻想的な美しさがあるのだろうか。

 今では祇園祭と並ぶ夏の風物詩となっているが、京都の人にとっては、あくまでもお盆の翌日に行う宗教的行事である。だから、決して、大文字焼きとは呼ばない。

 「五山の送り火は、山焼きとは違います。精霊を送り、また、無病息災を願うという本質を理解してほしい」

 大文字保存会の理事長松原公太郎さんは、そう話された。大文字送り火は、銀閣寺山麓の旧浄土寺村である銀閣寺町ほか三カ町の中の46軒の奉仕により運営されているものだ。

 その活動は、2月の赤松の選定から始まり、11月の松割木の倉庫移動まで続く。

 このような活動は、ほかの四つの送り火についても同じで、各山麓の町の人々が保存会を作り、さらに京都五山送り火連合会が結成されて、五山の送り火は、それぞれが京都市無形民俗文化財に登録されている。

 数百年といわれる送り火の歴史は民間の人たちによって支えられ、受け継がれてきた。その熱意と努力の素晴らしさも、燃える火に感じたい。

 「大文字山は、信仰の山という一面も色濃く持っているのです」と、松原さん。

 ほかの山とは異なり、年間15万人ほどの登山者がある大文字山だが、送り火の日だけは、一般の立ち入りが禁止される。銀閣寺門前では、この日まで点火に用いられる護摩木と火床に組んで燃やす松割木の受け付けが行われる。護摩木は、妙法山以外でも受け付けており、誰でも奉納することができる。

 送り火のゆらめく炎に、京都の夏がゆく。

 この夏の五山の送り火は、地元京都の人だけの行事に留まらないだろう。そして、明日への祈りの意味も持つに違いない。

【五山送り火】
8月16日▼大文字/左京区・東山如意ヶ嶽(大文字山)/20時00分点火▼妙・法/左京区・松ヶ崎西山(万灯籠山)、松ヶ崎東山(大黒天山)/20時10分点火▼船形/北区・西賀茂妙見山(船山)/20時15分点火▼左大文字/北区・大北山/20時15分点火▼鳥居形/右京区・嵯峨鳥居本曼荼羅山/20時20分点火 
(問)京都市観光協会☎075(752)0227、京都五山送り火連合会☎075(761)7799

◆ 「ひととき」2011年8月号より

 

 

 

    

 
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