Washington Files

2019年2月25日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

トランプ大統領は去る15日、国境の壁建設予算ねん出のため「国家非常事態」を発令した。だが、国民の大半は、自国が深刻な危機に直面しているとは思っておらず、大統領の取った行動に対し、さまざまな疑問や批判が沸き上がっている。

 大統領の今回の宣言は1976年、米議会で成立した「国家非常事態法」(略称NEA)に基づいたものだ。しかし、メキシコ国境からの最近の不法移民流入が同法の規定に該当するかどうかについては、疑問視する声が圧倒的に多い。

 NEAは根拠となる「脅威」について次のように定義づけているからだ:
 「アメリカ合衆国全体あるいは国外の主要部分に起源する国家安全保障、外交政策または経済に対する尋常ならざる、とてつもない脅威(unusual and extraordinary threat)」

 従ってこの定義に従えば、南部国境の移民問題が「国家的脅威」と受け止めることに大半の米国民が抵抗を感じるのは当然だろう。

(AFP/AFLO)

 そこで改めて、今回の「国家非常事態宣言」の矛盾と疑問点を整理してみよう。

1. 果たして危機なのか?

 トランプ大統領は15日、ホワイトハウス・ローズガーデンで「国家非常事態」を国民に向け説明するため長広舌の演説を行った。

 ところが、肝心のスピーチは冒頭から、不法移民問題とはまったく無関係の米中貿易摩擦問題に始まり、習近平国家主席とはきわめて良好な関係を維持していること、近く合意に達するだろうとの見通しなどに言及、続いて米英関係について両国間の通商交渉がうまくいっており、相互の貿易量も格段に増加することになると説明した後、中東シリア情勢、そして米朝関係に話題を移し、近く開催予定の第2回米朝首脳会談を念頭に「金正恩委員長との第1回会談でも朝鮮半島非核化に向けて大きな進展があった。

 私は彼を尊敬しており、とてつもない潜在的経済力を持つ国の偉大な指導者だ」などと持ちあげて見せた。

 こうした10分以上に及ぶ国際情勢に関する自説展開の後、ようやく本題に移ったが、そこでも途中、順調に拡大続ける国内経済、習近平氏との首脳会談予定、米中貿易の重要性、政府規制緩和の進展ぶり、ナンシー・ペロシ下院議長をはじめとする民主党議員批判などに話がそれるなど、全体を通じ、国家的脅威に直面した際の切迫感を感じさせるトーンとはおよそ程遠い冗長なものだった。

 さらに「国家非常事態」を宣言した翌日16日には、家族で週末をゆっくり過ごすため、「国境の脅威」が迫っているはずの同じ南部であるフロリダ州に自らが所有する別荘地「マール・ア・ラゴ」に移り、何事もないかのようにいつも通りゴルフを楽しんだ。

 カリフォルニア州サンディエゴ、テキサス州ヒューストン、アリゾナ州フェニックスなどメキシコと国境を接する各州の主要都市でも、商店街、レストラン街などではいつも通りの賑わい見せており、緊迫した雰囲気とはまったく無縁だという。

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