2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月2日

 北京理工大学の楊東平教授によると、上海市は早い段階から学校選択費の問題を是正する政策を実施しており、2013年までに高校の学校選択制を完全に廃止するという。河北省は今年から示範性高校の奨学生枠のうち80%を全区域の学校に均等に配分し、受験競争を緩和する予定である。江蘇省は示範性高校の評価において、15校中11校を条件つきで合格とし、放課後に有料で補習を行っていた1校の資格を取り消した(『新京報』2011年4月9日)。

 江蘇省政府が有名校を摘発するという大胆な行動に出たのは、教育の不平等を是正しようという断固とした決断があったからである。では、北京市はどうだろうか。前出の楊教授は、北京市政府は抜本的な対策を打ち出そうという態度が見られず、同市における学校選択費の徴収行為は非常に複雑化していると指摘する。中央政府のお膝元であるにもかかわらず、というか、官僚の多く住む土地柄ゆえに、この問題がもっとも深刻に表われているのであろう。

先生が率先し生徒をいじめ?
見本を示すべき教師が腐敗

 義務教育の段階でさえ激しい学校選択の競争が巻き起こっているのは、エリート校重視の予算配分が学校間のハード・ソフトの格差を広げているからである。さらに、もうひとつ深刻なのは、前線に立つ教師の腐敗である。教師は、実績を上げれば割のよい補習のアルバイトが舞い込んだり、親から謝礼をもらったりもできるため、学生の進学率を上げることに必死になる。一方で、成績が上がらない学生に対して苛立ち、他の学生たちの前で彼・彼女をあからさまに罵ったり、無視したりするようになる。学生の特徴をつかみ、それぞれに応じた教育内容を提供するというような地道な作業を行わなくなるのである。

 もちろん、中国には子どもの目線から教育を変えていこうとするすばらしい先生も大勢存在する。しかし、前述の「三限政策」のように、点数を金で買うことが合法化されるような状況では、教師でさえ、何がルールとして正しいのかさえ分からなくなってしまうだろう。そのため、先生が率先して学生をいじめるような事態が起こるのである。子どもの鏡となるべく先生がこのような状況では、国民に道徳心を植え付けることなどできないはずだ。中国がまず取り組むべきことは、国民に平等に学び、競争する機会を保障することである。

 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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