2024年12月5日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月2日

 本コラムでも紹介された広東省仏山市の女児ひき逃げ事件では、中国人の道徳意識の衰退が問題になった。貧富の差が著しい過酷な競争社会では、拝金主義がはびこりやすい。都市化が急激に進み、昔ながらの隣近所の助け合いができなくなっていることもある。「まずは自分の問題が大切。他人のことをかまっていられない」という感情が先に立つ人が増えていることは間違いない。

 当然、他の国でも同じような状況は見られる。しかし中国で特に顕著なのは、競争における公平性の確保に非常に大きな問題があるということである。たとえば、教育現場において、政府も学校も学生の「フェアプレイ」を尊重せず、金や権力(コネ)を重視している。点数がずば抜けている学生でさえ、親がコネや金を持つ学生にチャンスを奪われる可能性がある。また、金があっても、使えるコネの質や量によって、先に開かれる道は異なってくる。点数、金、コネのいずれにおいてもアピールできなければ、社会の底辺から抜け出すことはほぼ不可能だ。

学区制は画餅
小学校入学にも仲介料がいる

 「実験第二小学校12万元(約148万円)、中関村第一小学校10万元(約123万円)、北京師範大学付属小学校8万元(約98万円)、景山学校8万元、育民学校8万元……」

 これは、今春インターネット上に出回った「小学校入学の仲介料参考価格表」に書かれていた金額である。全部で20校の金額が示されたが、それに対して「25万元(約308万円)の学校もある」というコメントもあった。なぜ、小学校入学に仲介が必要なのかというと、学区外の志望校に入学するためには「学校選択」を行わなければならないからだ。そのための費用は暴騰しているという。

 この問題に対する批判でネットが炎上し、北京市教育委員会が対応を迫られたが、同委員会関係者は『北京晩報』(2011年3月29日)の取材に対し、「親が自主的に寄付をしているのであれば、違法ではない。問題だと思うなら、親が自分で通報すればよい。仲介業者が介入しているなら詐欺罪で訴えることが可能」と回答している。

 近年中国では、「学校選択」はエスカレートする一方である。一人っ子のわが子のためによい学校を探そうとして、理性を失う親は多い。しかし親ばかりを責めるわけにはいかない。根本的な解決策を示していない政府に問題がある。義務教育段階の公立校にとってまず大切なのは、基本的な学力の向上である。中国政府もそのような考えから、日本と同様に小学校・中学校9年の義務教育段階において学区制を敷いたのだが、実際にはほとんど機能していない。

学校選択費の上限は青天井

 親たちは、子どもがどのような小学校に入るかで、その先の中学校、高校、大学への進学状況が変わってくると考える。子どもを有名校に入学させるために、志望校のある学区に不動産を購入する者さえいる。しかし、同じように考える者が増えているためか、不動産は所有しているが実際に住んでいない者や中古物件の所有者の子どもの入学は認めないという学校もある。


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