某共産党機関紙の幹部である私の友人は、「学校選択費の上限は青天井だ。しかし、よいコネがなければ金があっても入学できない」と言う。彼は4万元(約49万円)を払い、息子を有名校に入れた。有力なコネがあったからこの金額で済んだようだ。フリーランスのジャーナリストである別の友人も、区の共産党委員会幹部を通じて、3万元(約37万円)で子どもを志望する中学校に入学させたという。中国人と結婚した日本人の友人は「差別しようというわけではないが、子どもの学区内にある小学校には農村からの出稼ぎ労働者の子どもが多く通っており、レベルが低いといわれている。別の学校に入れるなら、小学校でも5万元(約62万円)はかかる」と話してくれた。
天文台やホテルまである小学校
中国の教育財政は、高等教育に比べて初中等教育への投入が少ない。その上、「重点校」や「示範性学校」と呼ばれるモデル校に集中的に予算を配分する政策を取っている。筆者が以前視察した示範性学校は、天文台やホテルまで併設していた。先述の通り、義務教育段階では学区制を導入しているため、重点校も示範性学校もないはずなのだが、実際は、施設から教師やカリキュラムに至るまで、学校によって相当大きな開きがあり、評判のよい学校には学区外から多くの学生が集まる。
学区外に進学するために払う学校選択費には、「賛助費」や「借読費」(越境入学費)などさまざまな呼称がある。北京市海淀区で数年前に明らかになった中関村第三小学校万柳分校のケースでは、学校選択費として1億元(約12億3000万円)以上に及ぶ集金が行われていた。海淀区は北京のIT企業や北京大学、清華大学などの集まる文教地区であり、大学の付属学校などの有名校がある。市内の他区と比べても海淀区が受け取る学校選択費は多いといわれている。
不合格でも金を払えば「合格」に
高校段階になると、点数が合格点に満たなくても一定の金額を払って入学するという「学校選択」がある。つまり、「点数を金で買う」のである。しかし、「金額が際限なくつりあげられ貧しい家庭の学生に不利だ」「コネの有無に左右される」といった批判があり、最近では、(1)点数、(2)金額、(3)人数を限定する「三限政策」を採用する地域が増えている。たとえば先の海淀区では、点数は通常の合格ラインの20点下まで、金額は1人につき3万元(約37万円)まで、人数は1年に入学募集数の18%に限るとした。さらに透明性を高めるために、学生は指定の銀行に納付すること、区の財政部門が統一的に口座を管理して領収書を発行すること、集まったお金は公的な教育費として使うことと規定している。
中央のお膝元・北京市でもっとも混乱
学校選択費の徴収について、「金持ちから金をとってレベルの低い学校のために使えばよいのではないか」との意見もあるが、「学校選択と銘打った集金活動はあまりにも目に余る。規制すべきだ」という声もある。後者の声に敏感な地方政府は、関係者の処罰に乗り出している。
たとえば、10年の秋学期に合計1045万7400元(約1億2860万円)の学校選択費を受領していた西安電子科技大学付属小学校に対し同市教育委員会は、同校の校長を免職にし、集めた金を返却するように命じた。北京の有力紙『新京報』は2010年11月29日の社説で、「これは“潜規則”(隠れたルール)を打ち破る画期的なことだ」と述べた(※「潜規則」とは、明文化された法律や規則よりもさまざまな権力による隠れたルールを優先するという意味。01年に月刊誌『炎黄春秋』の編集長・呉思が官僚腐敗の根源を歴史的な視点から分析した同タイトルの本を出版し、話題になった)。