世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月16日

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 台湾の行政院(内閣)は3月28日、対中関係のあり方を規定する台湾の基本法である「台湾地区と大陸地区の人民関係条例」について、中台間の政治協議への立法院(国会)による監督を大幅に強化する改正案を決定、立法院に提出した。行政院の発表によれば、改正案の要点は次の通り。

(blueringmedia/iStock)

・中台間のあらゆる政治的議題についての議論・交渉は、行政院が提案し立法院の審議を経た事前提案に基づかなければならない。

・事前提案、交渉で得られた合意は、いずれも立法院において憲法改正と同じ特別多数の承認(4分の3以上の委員が出席し、その4分の3以上の賛成)を得なければならない。

・交渉で得られた合意は、立法院の承認を得た後、国民投票に付され、過半数の賛成を得なければならない。

 今年1月2日、中国の習近平国家主席は、台湾政策に関する包括的演説を行い、中台間の経済関係を強化すること、一国二制度による台湾統一を目指すこと、台湾統一のために武力行使をも辞さないことなどを明言した。中国は、台湾に対して、政治的・軍事的圧力を一段と強化するとともに、経済的働き掛けを強めることで、台湾の独立を損ねようとしている。

 「台湾地区と大陸地区の人民関係条例」改正案は、中台間の政治協議について、立法院の審査と国民投票を条件にし、透明性と国民の参加を保証しようとするもので、中国による政治的圧力に対抗する取り組みの重要な一歩である。憲法改正と同等の厳しい基準を設けることで、民進党に比べると中国に対して宥和的な国民党への政権交代が起こったとしても、中台間の政治協議については強く手を縛られることになる。現在、立法院も民進党が過半数を占めている。来年総統選挙とともに実施される予定の立法委員選挙で民進党が過半数を維持できるか不透明であるので、今のうちに改正をする必要性が強いと思われる。

 行政院は、本改正案について「四個必須(4つの『べし』)」を実現するものである、と説明している。「四個必須」は、今年1月1日に蔡英文総統が新年談話で提唱したもので、次のような内容である。

1.    中華民国・台湾が存在するという事実を直視すべし。

2.    台湾の2300万人の自由と民主主義の堅持を尊重すべし。

3.    平和で対等な方法により中台間の相違を処理すべし。

4.    政府あるいは政府によって授権された機関同士が交渉すべし。

 中国は蔡英文政権を厳しく非難し、いわば無視する一方、地方政府などあらゆる階層に働き掛けを強めている。たとえば、3月下旬には、国民党の韓国瑜・高雄市長が訪中し、中国の国務院台湾事務弁公室主任(閣僚級)との会談をするなどしている。韓国瑜は、次の総統選における国民党の有力候補と目される人物である。もちろん、こうした動きは正式な交渉ではないが、「四個必須」の第4項目の精神に反するような動きであるとは言えよう。

 なお、中国の台湾に対する政治圧力には、政府間の政治協議に関するものだけでなく、インターネットで偽情報により台湾の社会を混乱させ、民主主義を損ね、台湾政治に影響を与えようとする企てもあり、これが急速に強化されていると見られる。台湾政府は、中国の動画配信サービスを禁止するなどして偽情報の拡散に対抗することを検討している、と報じられている。

 いずれにせよ、中台間の「政治戦」は今後、ますます熾烈を極めていくものと思われる。注視していく必要がある。
 

  
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