2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年12月7日

 「現在の中国で、一部の役人は政治的な責任感が欠如している。いかなる政府も、民衆にとって最も関心のある問題に責任を負わなければならない。これこそ政治倫理問題というものだろう。(しかし)過去十数年間において、政府が役人を評価する基準で最も重要なのは経済成長を達したかどうかであり、この政治的業績は民衆の福利とはあまり関係ないものだ。つまり評価基準はどんどん厳しくなったが、それにつれて役人は民衆の苦しみに関心を持たなくなっている。経済成長のために民衆の福利が犠牲になっているとも言えるのだ」。

人民日報に掲載された
胡錦濤・温家宝批判

 ネットやメディアだけでなく、最近は政府系の著名研究者までもが共産党・政府批判を展開している。スクールバス問題とは関係ないが、結局は国家体制の弊害に矛先を向けている。さらにこの批判が人民日報(11月28日)に掲載されたため、波紋を広げた。

 政府系シンクタンク「国務院発展研究センター」高級研究員で改革派経済学者、呉敬璉氏はこう語った。

 「過去8~9年間で政府は多くのことを管理してきたが、それは別に管理すべきでなかったことだ。また一部の管理すべきことを管理しなかったし、うまくできなかった。(政策の)改善が必要だ」。

 「過去8~9年間」というのは、2002年に胡錦濤指導部が発足し、翌年胡氏が国家主席、温家宝氏が首相に就いて以降の期間を指しており、「胡・温体制」の経済政策を痛烈に批判したものと受け止められた。

 第一財経日報(11月14日付)も、ある会議での呉氏の別の発言を取り上げた。この中で呉氏は、共産党が03年に採択した「社会主義市場経済体制改善に関する決定」を取り上げ、「『決定』があったにもかかわらず、決定で推進するよう求められた改革はほとんど実行されなかった」と批判したのだ。

 筆者も北京で取材していて今や、胡主席や温首相に対する批判は、共産党・政府内の幹部であっても、オフレコならば普通に口にする危機的な状況だ。甘粛省のスクールバス事件に目の当たりにし、中国は一体、この10年近くで進歩どころか、後退したのではないかと痛感する知識人が多いのが現実だろう。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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