オトナの教養 週末の一冊

2019年5月31日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

(maroke / iStock / Getty Images Plus)

 ダチョウは、身の危険に直面すると頭を砂に突っ込んでやりすごそうとする頓馬なキャラクターとして描かれることが多いという。ところが実際は、飛べないという致命的な欠点を克服して猛ダッシュで逃げ去る能力を獲得した。

 ダチョウが飛べないために身を守る方法が限られているのと同じように、我々人間も意思決定をするときにはDNAに組み込まれた心理的なバイアスから逃れられない、と本書の著者はいう。それでも、環境、インセンティブ(報酬、見返り)、さらにコミュニケーション方法をうまく組み合わせれば、心理的バイアスを乗り越えて災害に対処する力を身につけることができるはずだ。

 「災害に対する備えをより良いものにするために、我々はダチョウを目指して多くを学ばねばならない」。というわけで、本書の原書タイトルは、「The Ostrich Paradox(ダチョウのパラドックス)」となっている。

テクノロジーの発展が
自分を守ることに結びつかないのはなぜか

 大規模な自然災害に対する予見力や防衛力は過去一世紀を通じて格段に向上した。にもかかわらず、災害による損害をほとんど減らせていないのは、なぜなのか?

 本書は、テクノロジーの発展が自分を守ることに結びつかないのはなぜかを心理学的観点から解き明かし、その解決策を提案することを狙いとしている。

 米国、日本など世界で実際に起きた災害を事例に挙げながら、「我々の心の働きにある悲劇的ともいえる欠陥」をわかりやすく解説する。そのうえで、失敗を避けるための方法として「行動リスク監査」という新しいアプローチを提案する。

 共著者のロバート・マイヤーとハワード・クンルーザーは、Whartonリスクマネジメントおよび意思決定プロセスセンター共同ディレクター。同志社大学心理学部の中谷内一也教授(専門はリスク認知、災害心理学)が、ニュージーランドのJoint Centre for Disaster Researchにおける1年間の在外研究期間中に本書と出合い、翻訳した。

 「災害対策改善のプロセスを推し進めるためには、災害に対する心理や行動についての知見を一般読者や防災に関係する人たちに分かりやすく体系立てて伝えることが必要」と考えていたところ、「ぴったりとあてはまる」本書に出合ったのだという。

 それだけに、日本の読者にわかりにくい点はコラムで丁寧な補足説明がされており、しろうとにも読みやすい。「セルフコントロールの不足を理解することで、セルフコントロールの弱さを補う手立てに目を向けられる」格好の教科書ともいえるだろう。

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