世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月23日

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 メキシコでロペス・オブラドール(通称AMLO)が大統領選で圧勝してから1年、新政権はポピュリスト政策を次々と打ち出しているが、そこには多くの制約と問題がある。メキシコの将来は、AMLOがポピュリスト活動家からステーツマンへと脱却できるかどうかにかかっている。

(lerbank/VanReeel/iStock)

 ステーツマンの第一条件は、やはり、外交に関心を持つことであろう。この点、AMLOは依然として甚だ心もとない。同氏は、G20首脳で唯一大阪サミットに欠席した。また、7月初めにリマで開催された太平洋同盟首脳会議も欠席した。未だ、海外出張はしておらず、トランプとも電話で話しただけである。安倍総理あての書簡では、欠席の理由を自らの対応と存在を必要とする緊急の課題があるためと説明しているが、数日間の国外出張ができないとは思えない。就任早々、大統領専用機を贅沢だと売り払い、航空機はエコノミーと宣言した時から、このような事態が懸念されたが、今日の国際社会で首脳外交は重要であり、ここまで内向きということになると、メキシコの存在感、発言力は弱まってしまう。

 AMLOの外交政策で評価できるのは、不法移民の源である中米の開発支援である。エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラの経済が安定し成長し、移民の流出が止まれば米=メキシコ関係も安定するし、日本もODAで支援すべき立場にある。G20は、そういった支援要請を行う格好の機会であったはずであるが、そのような機会は活かされなかった。

 内政面では、AMLOのポピュリズム戦略の核心は、公的資金の使途を変更して、自らの政治的プロジェクトに国家を従わせることにある。恩顧主義ポピュリズムと言ってもよい。ただ、エコノミスト誌の7月4日付けの記事‘AMLO’s populism is both rampant and constrained’によれば、彼のポピュリズム戦略には、3つの制約がある。それによれば、第1の制約は、最大のものは、メキシコ経済が米国との貿易協定に依存していることである。実際、先月、メキシコが中米諸国からの不法移民の流れを阻止しなければ、メキシコの輸出品に関税を課す、とトランプ大統領が脅すと、メキシコ政府は直ちにそれを呑んだ。第2に、AMLOはマクロ経済的安定とペソの価値の維持を約束、これまでのところ、経済成長を犠牲にして約束を守ってきた。今年は成長率が1%を超えない見込みだが、そこにはAMLOに疑念を持つ経済界が投資を控えた影響もある。そして、第3に、上院で憲法改正に必要な3分2の議席を押えていない。さらに、AMLOの与党Morenaは規律ある政党ではなく、おおざっぱで緩やかな運動に過ぎない。

 AMLOの支持率は、依然として60%を超えてはいるが、以前は70%を超えた時期もあり、経済は停滞、治安の悪化には歯止めがかからず、国民の不満も出始めており、現在支持率は低下傾向にある。治安については、AMLOの目玉政策でもあった軍の再編成による国家警備隊が配備され始めた(国内で最も暴力的な150地域に国家警備隊を配備する予定)のは最近であり、これがどの程度効果を上げるか、見定める必要があろう。

 国内の評価に限れば、やはり、今後、治安対策において成果を上げられるか否かに大きくかかっていると思われる。治安の改善が進まず経済の停滞が続けば、支持率が下がり、ますますポピュリスト的なバラマキに頼ろうとし、上記エコノミスト誌の記事も示唆する通り、市場がこれを嫌って経済がさらに停滞するという悪循環が懸念される。逆に、治安が顕著に改善するようなことになれば、国民の信頼が増し市場も評価し、その政権基盤をさらに固めることになろう。

  
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