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2019年9月1日

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勝村久司 (かつむら・ひさし)

高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員

1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。高等学校地学教諭。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の中央社会保険医療協議会や日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。2015年8月より群馬大学附属病院で腹腔鏡等で死亡事故が相次いだ事件の医療事故調査委員に就任。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

 9月1日は100年近く前の1923年に関東大震災が起こった日である。しかし、日本の子どもたちはこのことを授業で学ばない。防災訓練の前後の挨拶で触れるくらいで、実際に起こった大震災の原因も被害の状況も教訓も学ぶことができない。教師も学んでいないので教えることができないのである。

 その理由は、日本の地学教育が空洞化しているからだ。

 私は、5年前に、『防災の日に思う・・・地学教育を空洞化させた文科省と教育委員会の責任は重い』を書いたが、この5年間、状況は全く改善されておらず、地学教育が消滅に向かう負のスパイラルはさらに進んでしまっている。

(Anna Usova/gettyimages)

9割以上の高校が「地学」を選択できない

 理科は、「物理」「化学」「生物」「地学」の4分野があり、「地学」は、地震、火山、気象、宇宙、自然環境のメカニズムや、自然災害の猛威や歴史を学ぶ科目だ。

 しかし、多くの高校で「地学」は無視または軽視されている。

 早稲田大学教授の高木秀雄教授のページに「全国の「地学」を学べる高等学校」の一覧があるが、これによると、5000近くある全国の高校の内、「地学」を開設しているのは361校で、全体の7~8%に過ぎない。ただ、開設とはカリキュラム上に記載されているという意味で、実際は、選択科目なので、授業が開講されていないところもかなりあるはずだ。そもそも、全国の9割以上の高校では、地学を選択することはできないのである。特に、栃木、福井、島根、岡山、香川、大分、佐賀、長崎、宮崎の各県は、地学を開設している高校がない。

 平成30年度の教科書の需要数を見ても、物理25万3898冊、化学33万5509冊、生物25万5606冊、に対して、地学は1万1583冊しかない。また、教科書の出版会社は、物理、化学、生物は、それぞれ5社あるが、地学は啓林館と数研の2社しかない。しかも、30年度は4年に1度の改訂版を発行しなければいけない年であったが、数研は地学の改訂版を発行せず、実質、啓林館の1社だけとなってしまっている。

センター試験の地学は得点調整の対象外

 大学入試センター試験では、「世界史B」「日本史B」「地理B」の3科目、「現代社会」「倫理」「政治・経済」の3科目、「物理」「化学」「生物」「地学」の4科目については、それぞれのグループ内の選択科目の平均点の差が20点以上になれば、原則として得点調整することになっている。ただし、受験者数が1万人未満の科目は得点調整の対象としないこととされており、毎年、受験者数が2000人前後しかいない地学は、完全に対象外なのだ。これらの科目の内、地学の次に受験者数が少ないのは「倫理」だが、それでも毎年2万人以上が受験しており、地学だけが桁違いに少ない。

 実際、2015年と2016年に地学は続けて、本来なら得点調整となる低い平均点となったが、受験者数が1万人未満であることを理由に得点調整されなかった。物理、化学、生物、地学の4科目は、表面上、同列に扱われる選択科目に見えて、実は、地学だけは空洞化しているのである。

 これらの4科目は、理系用の科目であるので、地学が選択されない、または、地学が選択できない状況は、理系の進学者が地学を学んでいないということである。そのために、小中高で、理科を教えている教員のほとんどが地学を苦手としている。だから、それぞれの学校で地学が軽視または無視される。だから、地学を学ぶことができない、という悪循環が続くのである。

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