ヒットメーカーの舞台裏

2012年11月9日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 洗米から炊き上げに至るまで、2本の棒状のウイングでお釜の中の米をかき混ぜるという前代未聞の炊飯器の登場だ。今年8月下旬に記者発表すると、家電量販店などからの引き合いが殺到したため、発売日を10日ほど延期して在庫を積み増しし、10月1日に売り出した。販売目標は年7万台。釜の厚さや操作部などの違いによって2タイプが用意され、実勢価格は7万円前後と9万円前後になっている。

 長さ約10センチの棒状ウイングが付いた部品は「かいてんユニット」と呼び、上ぶたに装着してモーターで回転させる。ユニットの出番は4回ある。まずは洗米。米を入れた釜に水を注いで、すぐに捨て、もう一度水を入れる。この状態で本体にセットし、かいてんユニットで攪拌する。時間は米の量や水温に応じて30秒ないし1分程度。その後、釜を取り出し、研がずに2回ほど水を入れ替えて洗米が完了となる。

 洗米での攪拌は、米の表層部にある栄養素やうま味成分が、剥がれて流出するのを抑制するためだ。手による洗米だと強く研ぎ過ぎて流出が多くなるので、ユニットでやさしく攪拌するようにした。外部機関による分析で、ビタミンB1やマグネシウムは、通常の洗米に比べて2割余り多く残存するようになったという。

 次に炊飯のスイッチを入れると、「浸し」、「加熱」、「沸騰」の各工程で、かいてんユニットが作動する。浸しは、米を炊く前に十分な水分を吸収させ、中からふっくらしたご飯とするのに欠かせない。およそ5分、ゆっくりかき混ぜることによって1粒1粒が充分に水を含むようにする。

 加熱工程では、ご飯のおいしさを決定づけるブドウ糖などの甘み成分を引き出す。釜の内部が60℃となった状態で、標準的なコースでは17分ほど攪拌する。60℃は、ブドウ糖を作り出す「糖化酵素」が最も活性化する温度だという。攪拌するのは釜の上部と下部に生じる温度のムラを防ぐためだ。外部機関の分析では、攪拌しない場合に比べて甘み成分(還元糖量)は14%増加した。

 最後の沸騰も、うま味や甘みなどご飯の味を左右する工程となる。高火力を持続させるのがコツだが、そうすると「おねば」と呼ばれる泡ぶくが、釜から吹きこぼれやすくなる。おねばは、うま味そのものだそうだ。この工程では、かいてんユニットがウイングを収納した状態で高速回転を繰り返し、おねばの吹きこぼれを防ぐ仕事をする。これにより、ご飯の表面の「おねば層」は3割強増えたという。

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